本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第4部第19章

  アフリカとヨーロッパの衝突の結果が、ヨーロッパ人のアフリカへの入植になったことの直接の要因ははっきりしている。ヨーロッパ人は、アメリカ先住民に遭遇したときと同様、アフリカ人に対して三つの点で優位に立っていた——彼らは、銃をはじめとする技術を発展させていた。字を読み書きする能力も広く普及していた。探検や征服に要する莫大な資金を提供しつづけることのできる政治機構がすでにできあがっていた。

 

  それは、これまで考察したとおり、食料の生産がそれらの三つの要因の発達を可能にしたからである。そして、アフリカには栽培化や家畜化可能な野生祖先種があまり生息していなかった。食料の生産に適した土地があまりなかった。さらに、南北に長い陸塊であったため、食料生産や発明が拡散しにくかった。こうしたことが原因となって、サハラ以南では、ユーラシアより食料が生産されるようになるのが遅かった。

 

  結論を述べると、ヨーロッパ人がアフリカ大陸を植民地化できたのは、白人の人種主義者が考えるように、ヨーロッパ人とアフリカ人に人種的な差があったからではない。それは地理的偶然と生態的偶然のたまものにすぎない——しいていえば、それは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の広さのちがい、東西に長いか南北に長いかのちがい、そして栽培化や家畜化可能な野生祖先種の分布状況のちがいによるものである。つまり、究極的には、ヨーロッパ人とアフリカ人は、異なる大陸で暮らしていたので、異なる歴史をたどったということなのである。

 

倉骨彰 訳