本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

トルストイ「トルストイの言葉」

他人に対して嘘をつくことは悪いことだ。しかし自分自身に対して嘘をつくことのほうが、それよりもさらに悪い。こうした嘘が特に有害なのは、他人に嘘をつく場合には、それでも他人がその嘘をあばいてくれるが、自分に嘘をつく場合には、誰もその嘘をあばい…

トルストイ「トルストイの言葉」

ひとりの人間が、不必要なものをたくさん抱えていれば、ほかのたくさんの人間が、必要なものにそれだけ不自由することになる。 (人生の道) 小沼文彦 訳編

トルストイ「トルストイの言葉」

人々はいかに話すべきかを学習する。しかし、なによりも大切な学問は、どんな場合にどんなふうにして沈黙をまもるべきかを知ることである。 (人生の道) 小沼文彦 訳編

トルストイ「トルストイの言葉」

私たちは、装塡された銃は慎重に扱わなければならないことを知っている。それなのに、言葉も同様に慎重に扱わなければならないことを知ろうとはしない。言葉は、人を殺すことができるばかりではなく、殺人よりももっと仕末のわるい悪をなすこともできるので…

トルストイ「トルストイの言葉」

人間は言葉によって思索する。言葉がなければ思想もない。思想こそは、私個人、そしてまた全人類の生活を動かす原動力である。したがって思想をふまじめに扱うことは、大きな罪である。そして「言葉を殺す」ことは「人間を殺す」ことにも劣らない大罪である…

トルストイ「トルストイの言葉」

子供はおとなよりも聡明である。子供は、人間に地位や身分のあることを理解しない。子供は、自分の内部に住んでいる霊と同じ霊が、どの人間の内部にも住んでいることを、心から感じ取るのである。 (人生の道) 小沼文彦 訳編

モーム「サミング・アップ」

もしかすると我々は善に、人生の理由や説明ではなく、人生の悪を軽減する役目をしてもらうのかもしれない。このお粗末な宇宙では、我々は揺籠から墓場まで悪に取り囲まれているのだが、善は挑戦でも答えでもなく、我々が独立した存在であるのを確認するのに…

モーム「サミング・アップ」

第一に、美は終止符だと分かった。美しいものを見ていると、私はただただ感心して眺めているしかないのだった。それが与えてくれる感動は素晴らしいが、感動は持続しないし、無限に感動を繰り返すことも出来なかった。それで、この世の最高に美しいものも結…

モーム「サミング・アップ」

真実とはそれほど大袈裟な価値ではなく、個々の存在物について何事かを主張するに過ぎない。ただ事実をそのまま述べるだけである。 人間は自分の虚栄心、快適さ、利益のために真実を犠牲にしてきた。人は真実ではなく偽りによって生活している。私は時どき思…

モーム「サミング・アップ」

私はいつも未来に向かって生きてきたので、未来が短くなった今も、その習慣から抜け出せないでいる。そして何年後かははっきり知らぬが、やがて私の目論んだ人生模様が完成するのを平静な気持で待っている。時には衝動的に死にたいという願望を覚えることも…

モーム「サミング・アップ」

完全な一生——人生模様の完成——のためには、若さ、壮年だけでなく、老年も入れなくてはならないのだ。朝の美、昼の輝きもよいが、夕べの静寂を締め出すためにカーテンを閉め、明かりをつける者がいるとしたら、実に愚かである。老年には楽しみがあり、その楽…

モーム「サミング・アップ」

人間というものは誰しも相互に矛盾する複数の分身を束ねた存在かもしれないが、作家、画家は特にそのことに気付いている。一般人の場合は、送っている人生によって分身の一つが支配的なものとなり、意識下での心理を無視すれば、最後には一つの分身が全人格…

モーム「サミング・アップ」

作家は、他の人もそうだろうが、試行錯誤によって学ぶ。初期の作品は習作であり、作家は様々な主題や様々な手法を試し、同時に自分の性格を涵養するのである。その過程で作家は自己発見をする。発見した自分こそ作品において展開すべきものであり、やがてこ…

モーム「サミング・アップ」

想像力は訓練で増大するものであり、よく誤解されているが、若い人より年配者のほうが想像力は勝っている 行方昭夫 訳

モーム「サミング・アップ」

その一方、二度読んだ本はほとんどない。一度読んだだけでは全てを味わえない書物がたくさんあるのは知っているが、一度読んだときに吸収できるものは全て吸収したのであり、それこそが、たとえ細部は忘れても永遠の財産として自分に残るのだ。世の中には同…

モーム「サミング・アップ」

私は皮肉屋だと言われてきた。人間を実際よりも悪者に描いていると非難されてきた。そんなことをしたつもりはない。私のしてきたのは、ただ多くの作家が目を閉ざしているような人間の性質のいくつかを、際立たせただけのことである。人間を観察して私が最も…

モーム「サミング・アップ」

我々は誰しも、一人の例外もなく、最初は自分の心の孤独の中で生きることから始め、それから与えられた材料と他者との交流を活用して、自分の必要に似合った外界を作る。 行方昭夫 訳

モーム「サミング・アップ」

我々は誰しも、一人の例外もなく、最初は自分の心の孤独の中で生きることから始め、それから与えられた材料と他者との交流を活用して、自分の必要に似合った外界を作る。 行方昭夫 訳

モーム「サミング・アップ」

美文を書こうなどとは少しも考えなくなっていたのだ。文章を飾るのがいやになり、可能な限り気取らずに素朴に書きたいと願うようになっていた。頭の中に書きたいことがいくらでもあるので、無駄な言葉を使う余裕などなかった。事実を書くことしか念頭になか…

スタンダール「赤と黒」

世論の支配は、たしかに自由を保証してくれる。が、その不都合な点は、それが不必要なことにまで、たとえば私生活にまで干渉してくることである。 大岡昇平・古屋健三 訳

スタンダール「赤と黒」

《おれは真実を愛した……それはどこにあるのだ?……どこを見ても偽善ばかり、少なくともぺてんばかりだ。どんな碩徳の士も、どんな偉人も、例外ではない》ジュリアンの唇は嫌悪の情にひきつった……《そうだ、人間は人間を信頼することができない。 大岡昇平・古…

スタンダール「赤と黒」

自然法などありはしない。そんな言葉は、このあいだおれを痛めつけた次席検事ぐらいが口にしそうな時代がかった世迷い言だ。あいつの祖先は、ルイ十四世時代の没収財産のおかげで金持ちになったんではないか。法というものは、かくかくのことをしてはならぬ…

スタンダール「赤と黒」

「そっとしておいてくれ、僕は現在申し分のない生活を送っているのだ。君らの瑣末な骨折り話や、みみっちい現実生活の話は、いずれにしろ僕にはうるさいばかりだし、天上から僕を引きずりおろすようなものだ。人間にはそれぞれちがった死にかたがある。僕は…

スタンダール「赤と黒」

今日私が賢いのは、当時気違いじみていたからである。おお、この瞬間にしか眼をとめない哲学者よ、君はなんという近視眼者か!君の眼は、情熱の隠れた働きを追うようにはつくられていない。 W・ゲーテ 大岡昇平・古屋健三 訳

スタンダール「赤と黒」

野心が生み出したさまざまの望みを、《おれは死ぬのだ》という由々しい言葉で、ひとつひとつ心からもぎとらなければならなかった。死そのものは、とくに恐ろしいとは思わなかった。これまでの人生は、すべて不幸にたいする長い準備に費やされてきた。そんな…

スタンダール「赤と黒」

だが、この楽しみも、これほどの用心と細心さとを払って味わうのでは、もはや私にとっては楽しみとはいえなくなるだろう。 ローぺ・デ・ヴェガ 大岡昇平・古屋健三 訳

スタンダール「赤と黒」

「少なくとも罪を犯すときぐらい、楽しんでやらなければ、意味がない。犯罪のいいところは、それだけなんですから。それにまた、犯罪をすこしでも正当化しようとすれば、理由はそれしかありません」 大岡昇平・古屋健三 訳

スタンダール「赤と黒」

《これで、おれの地位とまったく反対の側をみたわけだ。おれには、二十ルイの年収すらないのに、一時間に二十ルイも収入のある男ととなりあわせでいて、しかもそいつのほうが馬鹿にされたのだ……こんな光景を目撃すると、羨望の心も消えてしまう》 大岡昇平・…

スタンダール「赤と黒」

「君の性格のなかには、少なくとも、わしにとっては定義しがたいなにかがある。そのために、君は出世しなければ、迫害されるだろう。君には、中庸の道はない。思い違いしてはいけない。話しかけても、君が喜ばないことを、他人は見ている。」 大岡昇平・古屋…

スタンダール「赤と黒」

「君の性格のなかには、少なくとも、わしにとっては定義しがたいなにかがある。そのために、君は出世しなければ、迫害されるだろう。君には、中庸の道はない。思い違いしてはいけない。話しかけても、君が喜ばないことを、他人は見ている。」 大岡昇平・古屋…