本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘルマン・ヘッセ 「人は成熟するにつれて若くなる」V.ミヒェルス編

私たち老人にとって現実はもはや生ではなく、死である。その死を私たちはもう外部からくるのを待つのではなく、それが私たち内部に住んでいることを知る。私たちはなるほど私たちを死に近づかせる老衰や苦痛に抵抗はするけれど、死そのものには抵抗しない。…

ヘルマン・ヘッセ 「人は成熟するにつれて若くなる」V.ミヒェルス編

私たちは苦しみと病を体験した。私たちは死によって多くの友人たちを失った。そして死は、私たちの窓を外から叩くだけでなく、私たちの内部でも仕事をし、その仕事をはかどらせた。かつてはあんなにあたりまえのものであった生は、ひとつの高価な、常に脅威…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」はじめに

歴史分析と、ちょっと広い時間的な視野の助けを借りると、産業革命以来、格差を減らすことができる力というのは世界大戦だけだったことがわかる。 富が集積され分配されるプロセスは、格差拡大を後押しする強力な力を含んでいる、というか少なくともきわめて…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第I部 所得と資本

第1章 所得と産出 まとめると、国際レベルでも国内レベルでも、収斂の主要なメカニズムは歴史体験から見て、知識の普及だ。言い換えると、貧困国が富裕国に追いつくのは、それが同水準の技術ノウハウや技能や教育を実現するからであって、富裕国の持ち物にな…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第II部 資本/所得比率の動学

第6章 21世紀における資本と労働の分配より 第一に、歴史的な低成長レジームへの回帰、特にゼロあるいはマイナスの人口増加は、論理的に資本の復活をもたらす。低成長社会が非常に大きな資本ストックを再構築するという傾向はβ=s/gの法則で表され、これをま…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第III部 格差の構造

第7章 格差と集中 実際に所得格差を比較すると、最初に気づく規則性は、資本の格差が、労働所得の格差よりも常に大きいということだ。資本所有権(そして資本所得)の分配は、常に労働所得の分配よりも集中している。 この規則性はデータが入手可能なあらゆる…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第III部 格差の構造

第10章 資本所有の格差 伝統的農耕社会と、第一次世界大戦以前のほぼすべての社会で富が超集中していた第一の原因は、これらが低成長社会で、資本収益率が経済成長率に比べ、ほぼ常に著しく高かったことだ。 たとえば成長率が年約0.5-1パーセントと低い世界…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第III部 格差の構造

第12章 21世紀における世界的な富の格差 インフレの主な影響は、資本の平均収益を減らすことではなく、それを再分配することなのだ。そしてインフレの影響は複雑で多次元的だが、圧倒的多数の証拠が示している通り、インフレが招く再分配は、主に最も裕福で…

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」おわりに

本研究の総合的な結論は、民間財産に基づく市場経済は、放置するなら、強力な収斂の力を持っているということだ。これは特に知識と技能の拡散と関連したものだ。でも一方で、格差拡大の強力な力もそこにはある。これは民主主義社会や、それが根ざす社会正義…

Luis Sepúlveda "Historia de una gaviota y del gato que le enseñó a volar"

—Todos te queremos, Afortunada. Y te queremos porque eres una gaviota, una hermosa gaviota. No te hemos contradicho al escucharte graznar que eres un gato porque nos halaga que quieras ser como nosotros, pero eres diferente y nos gusta que…

J.R.ヒメネス 「プラテーロとわたし」日食

ついさっきまで、複雑な金の光を放って、あらゆるものを二倍にも三倍にも、いや百倍にも、大きく美しく見せていた太陽が、たそがれのゆるやかな変化もなしにかくれてしまうと、すべては金から銀へ、銀から銅へ、きゅうにとり変えられたように、ひっそりとし…

J.R.ヒメネス 「プラテーロとわたし」夕景

丘の頂き。そこに落日がある。落日はむらさきいろに染まり、みずからの光の矢で傷つき、からだじゅうから血を流しているようだ。みどりの松林は入り日を受けて、ほんのりと赤く彩られている。まっかな、すきとおった小さな花や草が、しめりけのある明るいか…

J.R.ヒメネス 「プラテーロとわたし」小川

おまえはどうか知らないが、幼い頃の空想というものは、なんとすばらしい魅力だろうね、プラテーロ!それはみな、たのしい変化を見せながら、遠ざかり、また近づいてくる。心に浮かぶ幻想の絵のように、すべてが見えたかと思うと、また見えなくなる…… そして…

J.R.ヒメネス 「プラテーロとわたし」清らかな夜

私の心にひそむ力は、なんと私を高めてくれるのだろう!私はまるで、自由の鐘をかざした素朴な石の塔になったようだ。ごらん!空いっぱいの星を!あんまりたくさんあるので、目がくらんでしまう。大空は、子どもたちの世界のようだ。それは理想の愛に光りかがや…

エンデ全集15 「オリーブの森で語りあう」(対談集)

十六世紀はじめには、世界を客観と主観に二分するのは、なにか特定の研究をすすめるための、まったくのフィクションだということが、まだみんなの意識にのこっていた。ところが、時代がすすむにつれて、この二元論はフィクションにもとづいているという点が…

V.E.フランクル 「夜と霧」死の蔭の谷にて

この瞬間、眺めているわれわれは嫌悪、戦慄、同情、昂奮、これらすべてをもはや感じることができないのである。苦悩する者、病む者、死につつある者、死者——これらすべては数週の収容所生活の後には当り前の眺めになってしまって、もはや人の心を動かすこと…

V.E.フランクル 「夜と霧」非情の世界に抗して

人間が強制収容所において、外的にのみならず、その内面生活においても陥って行くあらゆる原始性にも拘わらず、たとえ稀ではあれ著しい内面化への傾向があったということが述べられねばならない。元来精神的に高い生活をしていた感じ易い人間は、ある場合に…

V.E.フランクル 「夜と霧」苦悩の冠

経験的には収容所生活はわれわれに、人間は極めてよく「他のようにもでき得る」ということを示した。人が感情の鈍麻を克服し刺戟性を抑圧し得ること、また精神的自由、すなわち環境への自我の自由な態度は、この一見絶対的な強制状態の下においても、外的に…

カミュ 「異邦人」第2部

そのとき、なぜか知らないが、私の内部で何かが裂けた。私は大口をあけてどなり出し、彼をののしり、祈りなどするなといい、消えてなくならなければ焼き殺すぞ、といった。私は法衣の襟くびをつかんだ。喜びと怒りのいり混じったおののきとともに、彼に向か…

J.D.サリンジャー 「ライ麦畑でつかまえて」

続いて僕は、みんながよってたかって僕を墓地の中に押しこめて、墓石に名前を彫ったりなんかすることを考えた。まわりはみんな死んだ奴らだからな。いやあ、人間、死ぬと、みんなが本当にきちんと世話をしてくれるよ。僕が死んだときには、川かなんかにすて…

J.D.サリンジャー 「ライ麦畑でつかまえて」

多くの人たちが、ことに、この病院にいる精神分析の先生なんかがそうだけど、今度の九月から学校に戻ることになったら、一生懸命勉強するかって、始終僕にきくんだな。そんなの、実に愚問だと思うんだ。だって、実際にやるまでは、どんなようなことになるか…

ウンベルト・サバ 「ウンベルト・サバ詩集」

ミラノ 石と霧のあいだで、ぼくは休日を愉しむ。大聖堂の広場に憩う。星のかわりに夜ごと、ことばに灯がともる。 人生ほど、生きる疲れを癒してくれるものは、ない。 須賀敦子 訳

サン=テグジュペリ 「人間の土地」僚友

何ものも、死んだ僚友のかけがえには絶対になりえない、旧友をつくることは不可能だ。何ものも、あの多くの共通の思い出、ともに生きてきたあのおびただしい困難な時間、あのたびたびの仲違いや仲直りや、心のときめきの宝物の貴さにはおよばない。この種の…

サン=テグジュペリ 「人間の土地」飛行機と地球

家のありがたさは、それがぼくらを宿し、ぼくらを暖めてくれるためでもなければ、またその壁がぼくらの所有だからでもなく、いつか知らないあいだに、ぼくらの心の中に、おびただしいやさしい気持ちを蓄積しておいてくれるがためだ。人の心の底に、泉の水の…

サン=テグジュペリ 「人間の土地」砂漠のまん中で

さようなら、ぼくが愛した者たちよ、人間の肉体が、三日飲まずには生きがたいとしても、それはぼくの罪ではない。ぼくもじつは知らなかった、自分がかほどまで、泉の囚われだとは。ぼくは、疑わなかった、自分に、こんなにわずかな自治しか許されていないと…

サン=テグジュペリ 「人間の土地」砂漠のまん中で

水よ、そなたには、味も、色も、風味もない、そなたを定義することはできない、人はただ、そなたを知らずに、そなたを味わう。そなたは生命に必要なのではない、そなたが生命なのだ。そなたは、感覚によって説明しがたい喜びでぼくらを満たしてくれる。そな…

サン=テグジュペリ 「人間の土地」人間

つまり、ぼくらは解放されたいのだ。つるはしをひと打ち打ちこむ者は、自分のそのつるはしのひと打ちに、一つの意味があることを知りたく願う。しかも徒刑囚を侮辱する徒刑囚のつるはしのひと打ちは、探検者を偉大ならしむる探検者のつるはしひと打ちとは、…

アン・モロウ・リンドバーグ 「海からの贈りもの」にし貝

しかしわたしは何よりもまず……ほかの望みもまた、そこを目指しているという意味において……わたし自身とひとつでありたい。それがわたしの望みだ。自分への責任や自分の仕事に、最善を尽くすために。 ものごとの核心を正しくとらえ、通俗的なことに足をすくわ…

アン・モロウ・リンドバーグ 「海からの贈りもの」つめた貝

現在という瞬間を生きていくこと……。それは、島での暮らしを、とても新鮮で純粋なものしてくれる。「ここ」と「いま」しかないところで、人は、子どもや聖者のように生きる。毎日が、また自分のすることのひとつひとつが、時間と空間に洗われた島となり、ひ…

アン・モロウ・リンドバーグ 「海からの贈りもの」あおい貝

昼間の仕事や、細々としたこと、親密な感情や、心を開いて話した後でさえ感じる、ある種の窮屈な感覚……。その感覚の後には、新鮮な潮流のように胸に流れ込んでくる満点の星の夜の、そんな限りない大きさと全体性が欲しくなるものだ。 落合恵子 訳