本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」第6章

歴史上、人間が寿命という限界を超えて生き続ける唯一の手だては、その価値観や信仰や知識を将来の世代に伝えることだった。今、われわれは存在の基盤となるパターンのストックが保存できるようになるという意味で、パラダイム・シフトを迎えつつある。人間…

レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」第6章

バージョン3.0の人体は意のままに異なる形状へ変わることができ、大半が非生物となったわれわれの脳は、もはや生物としての限られた構造に縛られることはない。そうなると、人間とはなにかということが徹底的に問われるようになるだろう。ここに述べた個々の…

レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」第8章

われわれが創造する非生物的な知能は、現在も将来も、われわれの社会に埋め込まれ、われわれの価値観を反映するだろう。生物的進化の極限期では、生物的知能と深く一体化した非生物的知能が生まれるだろう。それによって人間の能力は強化されるが、このより…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

「あなた方も同じようにして下さい。しかしその際、弓を射ることは、筋肉を強めるためのものではないということに注意して下さい。弓の弦を引っ張るのに全身の力を働かせてはなりません。そうではなくて両手だけにその仕事をまかせ、他方腕と肩の筋肉はどこ…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

「あなたは何をしなければならないかを考えてはいけません。どのように放れをやるべきであるかとあれこれ考えてはならないのです。射というものは実際、射手自身がびっくりするような時にだけ滑らかになるのです。弓の弦が、それをしっかり抑えている親指を…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

「正しい弓の道には目的も、意図もありませんぞ!あなたがあくまで執拗に、確実に的にあてるために矢の放たれを習得しようと努力すればするほど、ますます放れに成功せず、いよいよ中りも遠のくでしょう。あなたがあまりにも意志的な意志を持っていることが…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

この道の第一歩はもはやさきになされたことであった。それは身体の力を抜いた状態になることであったが、それなしには正しく弓を引くことができないのである。ところが正しい放れに成功するためには、身体の力を抜いた状態をば、さらに心や精神の力を抜くこ…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

この状態、その中ではもはや何ら特定のことが考えられず、計画されず、希求、願望、期待されない状態、どんな特殊の方向に向かっても目指して行かないものでありながら、しかも確固不偏の力の充実のゆえに可能なものに対しても、あるいはまた不可能なものに…

オイゲン・ヘリゲル「弓と禅」

日本の弟子は三つのことを身につけてくる。善いしつけと、自分の選んだ芸術に対する情熱的な愛と、師に対する批判抜きの尊敬とである。師弟関係は昔から生の基礎的な結合であり、それゆえ師はその教授科目の枠をはるかに超えて、強度の責任をとることが、こ…

シラー「世界詩集」(講談社)より

孔夫子の箴言 時間の歩みは三重だ。ためらいがちに未来は近づき、矢のように早く現在は飛び去り、永遠に静かに過去は立ちどまっている。 時間のとどこおるとき、どれほどあせっても時間の歩みを早めることはできない。時間の飛び去るとき、おそれも、思いま…

ミュッセ 「世界詩集」(講談社)より

悲しみ 力も 生命も 失った、友だちも 陽気さも、自分こそ天才と思いこんでいたあの誇りさえも。 「真理」を知ったとき仲間と思ったものだった知ってしまい わかってしまうともう鼻についていた。 とは言うものの「真理」は不滅「真理」に何の用もなかった人…

ボードレール 「世界詩集」(講談社) より

人と海 自由な人よ、いつまでもお前は海をいとしむだろう!海はお前の鏡。果てしない波のうねりのなかでお前は お前の魂をじっとみつめる、そうしてお前の精神も、やっぱり苦い深淵だ。 お前は お前の絵姿のなかに飛び込むのが好きだ。お前は両眼で両腕でそ…

サン=テグジュペリ「夜間飛行」

リヴィエールはよく言っていた。 __あの連中みんな幸福だ、なぜかというに、彼らは自分たちのしていることを愛しているから。彼らがそれを愛するのは、僕が厳格だからだ」 彼は、あるいは、配下の人員を苦しめたかもしれない。しかしまた彼らに大きな喜び…

サン=テグジュペリ「夜間飛行」

「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情はしない。いや、しないわけではないが、外面には現さない。僕だとて勿論、自分の周囲を、友情と人間的な温情で満たしておきたいのはやまやまだ。医者なら自分の職業を遂行しながら…

サン=テグジュペリ「夜間飛行」

彼は思い続けた。あの二人の搭乗員、ともすれば死んでしまうかもしれないあの二人の搭乗員は、幸福な生活を続け得た二人かもしれないのだ。彼には宵のランプの金いろの光の聖殿の中にうなだれている二人の顔が見えた。「何者の名において、僕は彼らをそこか…

サン=テグジュペリ「夜間飛行」

彼がもし、たった一度でも、出発を中止したら、夜間飛行の存在理由は失われてしまう。あす、彼リヴィエールを非難するであろう彼ら気の弱い者どもを出し抜いて、彼はいま、夜の中へ、この新しい搭乗員を放してやるのだ。 勝利だの……敗北だのと……これらの言葉…

メリメ「アルセーヌ・ギヨ」

「あのときは、かわいそうに気が狂っていたのですわ、いまとなっては後悔しておいででしょう、ねえ、きっと?」「はい……でも不幸に追いつめられると、頭までが自分のものではなくなりますの」 堀口大學 訳

メリメ「アルセーヌ・ギヨ」

「そのうえで自分に言い聞かせましたの、あたしが自殺したら、あの人が苦しむだろうと、そうしたら復讐したことになると……。窓があいていました、そのままあたし身を投げましたの……」「まあ、あなたという人は、なんということをしたのでしょう、理由も軽率…

メリメ「エトリュスクの壺」

サン=クレールは、全然友情を信じなかった、この事実は他人にも感じられた。彼が社交界の若い連中と熱のない控え目な交際をしているというのも定評になっていた。彼らの内証事を問いただしたりは絶対にしなかったが、そのかわり彼の心中のことも、行動の大部…

メリメ「カルメン」

「頼むから聞きわけてくれ、過ぎ去ったことはいっさい水に流すとまでおれは言ってるんだ。おれがこんなやくざになったのも、おれが泥棒になったのも、人殺しをしたのもみんなあんたのためだと知っているあんたじゃないか。カルメン! おれのカルメン! おれ…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

あまりにも満足しきっている時代、あまりにも達成されている時代は、実は内面的に死んでいるのに気づく。紛れもない真の生の充実とは、満足や達成や到達にあるのではない。すでにセルバンテスが「道中のほうがいつでも宿屋よりよい」と言っている。自己の願…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

現代の特徴は、凡俗な人間が、自分が凡俗であることを知りながら、毅然と凡俗であることの権利を主張し、それをあらゆる所で押し通そうとするところにある。 桑名一博 訳

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

人類という軍隊は今や隊長だけで構成されている。このことは、今日すべての人々が大変なエネルギーと固い決意と身軽さで動きまわり、目前を通りすぎる享楽にとびつき、自分の決断を押し通そうとしているのを見ればよく分かるだろう。 桑名一博 訳

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

今日われわれは、明日この世で何が起こるのかをもはや知らない。そして、そのことにひそかな喜びを感じているのである。というのは、予測しがたいということ、地平線が常にあらゆる可能性に向かって開かれていること、そういうものこそが紛れもない生であり…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

つまりわれわれの時代は、信じがたいほどの実現能力があるのを自分に感じながら、何を実現すべきかが分からないのである。つまりあらゆる事象を征服しながらも、自分自身の主人にはなれず、自分自身の豊かさの中で自己を見失っているのだ。われわれの時代は…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

大衆には強烈に生きるための道具は与えられたが、偉大な歴史的使命に対する感受性は与えられなかった。彼らには誇りと近代的手段の力が性急に接種されたが、精神の接種はなされなかったのだ。そのため大衆は、こと精神に関しては何も望まず、新しい世代の人…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

彼らは安楽しか気にかけていないにもかかわらず、その安楽の根拠には連帯責任を負っていないのだ。大衆は、文明の利点の中に、非常な努力と細心な注意によって初めて維持されうる驚嘆すべき発明や構築物を見ようとしないのである。だから彼らは、まるでそれ…

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

一般に考えられているのとは反対に、本質的に奉仕に生きている者は選ばれた被造物であって、大衆ではない。すぐれた人間は、自分の生を何か超越的なものに奉仕させないと生きた気がしないのだ。したがって彼は、奉仕しなければならないことを圧迫だとは考え…