本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 172

我々は現在についてはほとんど考えない。そして、もし考えたにしても、それは未来を処理するための光をそこから得ようとするためだけである。現在は決して我々の目的ではない。過去と現在とは、我々の手段であり、ただ未来だけが我々の目的である。このよう…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 198

小さなことに対する人間の感じやすさと、大きなことに対する人間の無感覚とは、奇怪な転倒のしるしである。 前田陽一 責任編集

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 404

人間の最大の卑しさは、名誉の追求にある。だが、それがまさに人間の優秀さの最大のしるしである。なぜなら、地上にどんな所有物を持ち、どんなに健康と快適な生活とに恵まれていようと、人々は尊敬のうちにいるのでなければ、人間は満足しないのである。彼…

アダム・スミス 「国富論」第一編第一章

社会の進歩のつれて、学問や思索は他のすべての仕事と同じように市民の一特定階級の、主要なまたは唯一の職業となり生業となる。そのうえ、他のすべての仕事と同じように、この職業も多数の異なった分野に細分され、そのおのおのは、学者たちの特別の仲間や…

アダム・スミス 「国富論」第一編第十章

つまらない仕事では、労働の楽しみはもっぱら労働の報酬にある。その楽しみを最もはやく受け取れる状態にある人は、それを味わうことに最もはやく思いをめぐらし、そしてまた、勤勉の習慣をはやく身につけがちである。若い人は、長いあいだその労働からなん…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

彼女は、自分が全く普通だと信じていた。彼女の死にたいという選択の裏には、簡単な理由が二つあり、もしそれを説明するメモを残したら、多くの人が彼女に賛成してくれるだろう。 一つ目の理由は、彼女の人生の全てが代わり映えせず、一度若さを失ってしまえ…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

「狂気とはね、自分の考えをコミュニケートする力がないことよ。まるで知らない外国にいて、全て周りで起こってることは見えるし、理解もできるのに、知りたいことを説明することもできず、助けを乞うこともできないの。みんなが話している言葉が分からない…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

そのうえ、最新のリサーチで、戦時中には確かに精神的な犠牲者はいるものの、ストレス、退屈、先天的な病気、寂しさ、拒絶による犠牲者よりずっと少なかった。コミュニティが大きな問題に直面する時、例えば、戦争、超インフレ、疫病などだが、自殺者数にほ…

ヘミングウェイ 「老人と海」

やつの賭けは、わなや落とし穴や奸策をのがれて、あくまであの暗い海の底で頑ばることだった。ところで、こっちの賭けも、あらゆる人間の群れからのがれて、いや、世界中の人間から遠ざかって、その海の底までやつを追いかけていくことだ。というわけで、お…

ヘミングウェイ 「老人と海」

おまえはおれを殺す気だな、老人は心のうちでおもった。なるほどその権利はある。おい、兄弟、おれはいままでに、おまえほど大きなやつを見たことがない。おまえほど美しいやつも、おまえほど落ちついた気高いやつも見たことがないんだ。さあ、殺せ、どっち…

ヘミングウェイ 「老人と海」

「けれど、人間は負けるように造られてはいないんだ」とかれは声にだしていった、「そりゃ、人間は殺されるかもしれない、けれど負けはしないんだぞ」 福田恆存 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第4編

ぼくは自分の考えや仕事は大いに高く買ってはいる、だが、実際のところ、考えてみてくれよ、我々のこの世界なんて——小さな遊星の上に生えたほんのかびにすぎないじゃないか。それなのに、我々はこの世界に、何か偉大なものが——思想とか事業とか——存在し得る…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第6編

—— 分かっておくれよ、ぼくは嫉妬なんかしているんじゃないんだ。これはいまわしい言葉だ。ぼくには嫉妬なんか出来もしないし、そんな……なんていうことは信じられもしない。自分の感じていることがどうもうまく言えないんだが、これは恐ろしいことだ……ぼくは…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第6編

——まあそういうわけでだね、君。二者択一が必要なのさ。今日の社会制度を正しいものと認めて、その上で自己の権利をまもるか、さもなければ、ぼくがやっているように、不正な特権を利用していることを認めながらも、それを喜んで利用するか、だ。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第7編

つまり、彼女が彼に嫉妬したのは、どこかの女のためではなくて、彼の愛情の減少に対してだったのだ。嫉妬の対象はまだもっていなかったので、彼女はそれを探しだそうとした。そしてほんの些細な暗示ででも自分の嫉妬の対象を次々と移した。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第7編

すると彼女は突然、自分の心にあるものを悟った。そうだ、この考えこそすべてを解決してくれるものなのだ。《そうだわ、死ぬことだわ……!》 《そうなれば良人カレーニンやセリョージャの恥も、不面目も、わたしのおそろしい恥辱も——なにもかもが死によって救…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第8編

《無限の時間、無限の物質、無限の空間の中に泡のような有機体が浮び出る、そしてその泡はしばらくとどまって、消えてしまう、そしてその泡が——このおれなのだ》。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第8編

もし善が原因をもつものならば、それはすでに善ではない。もしそれが結果を—酬いをもつものならば、それもやはり善ではない。従って善は因果の鎖の外にあることになる。 そしてそのことは、おれも知っているし、われわれみんなが知っていることなのだ。 とこ…

ウンガレッティ 「ウンガレッティ詩集」

オリエントの面影 しめやかに移ろう微笑みのなかでぼくらはつながれているのだ渦巻き芽生える欲望に ぼくらは熟れてゆく太陽に摘みとられながら ぼくらはあやされているのだ期待という無限の網目のなかで太陽を浴びながら 目を閉じれば湖のなかを泳いでゆく…

ウンガレッティ 「ウンガレッティ詩集」

いつもの夜 わびしい人生が先へ先へと延びてゆくさらにおのれに怯えながら かすかな肌触りでぼくを押しつけ踏みつけてゆくあの無限のなかへと 河島英昭 訳

M.マクルーハン 「メディア論」第一部

何であれ新しいメディアが生み出されると、まぎれもなく「閉鎖」というべき心理的な作用が生じるが、それはそれにたいする需要があるからである。自動車が生まれるまで、だれも自動車を欲しがりはしないし、テレビの番組ができるまで、だれもテレビに関心を…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

エドワード・T・ホールは『沈黙のことば』のなかで「時間が語る——アメリカのアクセント」を論じて、われわれの時間感覚とホピ・インディアンの時間感覚を対照してみせている。ホピ・インディアンにとって、時間は画一的あるいは持続的な連続体でなく、共存す…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

心理的に見れば、印刷本は視覚機能の拡張したものであるから、遠近法と固定した視点を強化することになった。視点と消失点とを強調すると、そこに遠近法の幻覚が出来上がる。これに結びついて、空間が視覚的、画一的、連続的なものであるという、もう一つの…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

いったん文字文化人が細分化という分析技術を受け入れてしまうと、部族人のように宇宙のパターンにほとんど近づけなくなってしまう。開かれた宇宙よりは、分離された状態、仕切られた空気のほうを好む。自己の身体を宇宙のモデルとして受け入れたり、自己の…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

しかしながら、無文字世界には専門分化した「職業」なるものはない。未開の猟師や漁師は、現代の詩人や画家や思想家が労働をしないのと同じである。全人格が巻きこまれるところに、職業はない。職業は、定住の農耕共同体で労働の分化、機能と仕事の専門化が…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

言語もまた通貨と同じで、知覚を蓄えるものとして、個人あるいは世代の知覚や経験を伝えるものとして、その役割を果たす。言語は経験の変換者および貯蔵庫であるとともに、加えて、経験の縮小者および歪曲者でもある。だから、もし学習過程を加速し、時間と…

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

逆説的に聞こえるかもしれないが、オートメーションは一般教養教育を必須のものとする。自動制御機構の電気時代は、突如として、先行する機械時代の機械的、専門分化的労役から人間を解放する。ちょうど機械と自動車が馬を労役から解放して、娯楽の分野に投…

グスターボ・アドルフォ・ベッケル 「ベッケル詩集」11

当てずっぽうに放たれ空を駆け横切りゆく矢、どこに揺れながら突き刺さるのか知りようもない。 嵐が木からもぎとる枯葉、どこの溝で塵に戻るのか誰も言えはしない。 風が海に巻き上げ押しゆく大波、転がり過ぎゆきどこの浜辺を目ざし進んでいるのか分からな…

グスターボ・アドルフォ・ベッケル 「ベッケル詩集」15

青い水平線が遠い彼方にかすむのを黄金のゆらめく粉々のベールを透かして見つめている時、惨めな地べたから駆け上がりあの黄金の霧とともに漂えそうに僕には思える、軽々とした粒子となって霧のように形をなくして! 夜 暗い天の底に星たちが燃えたつ火の瞳…

グスターボ・アドルフォ・ベッケル 「ベッケル詩集」58

今日は昨日のよう、明日は今日のよう、そして永久に同じ!灰色の空、果てしない地平線そして歩く……歩く。 間の抜けた機械のように拍子を刻んで動く心臓。とんまな知性は脳の片隅で眠ったきり。 天国を願い望む魂は信仰もなく これを求める。目的もないままの…