本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

フランコ・カッサーノ 「南の思想」カッサーノへのインタビュー

西洋は自分がすべての原理主義の正反対だという自己イメージをもっているようですが、これは間違いです。とても深刻な間違いです。じつは西洋もその独特の原理主義をもっているのです。それは、競争や消費や、一人一人の人間を分離させ人々を憤慨させる個人…

ベール・ラーゲルクヴィスト 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

星空の下で ここに僕は立ちつくす無言で。ここに僕は額を垂れる聖なる空間よどんな人間の言葉も真実ではない。 山室静 訳

ベール・ラーゲルクヴィスト 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

杖はわれらの手から…… 杖はわれらの手から落ちるだろうさすらいの旅も終るのだ人間の土地は荒れはてて横たわりもはや何物もそこには起らぬだろうひとりの人間も遠くを眺めずひとりの若者も目ざめぬだろうひとりの巡礼も固い臥床の上で彼の心の条幅を味わうこ…

ポール・ラ・クール 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

樹木 夏じゅう、ぼくはおまえを見つめていた、木よだが、ぼくら双方の沈黙歌がはじまる前の深い、あらあらしい抑圧はただおまえのためにのみ歌となったおお、ぼくの通り道の土に根をはやして成長する詩人よぼくらはきっと出あうことができるのだぼくの中にあ…

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

光の蝶よ 光の蝶よばらに近づいていくと美は飛びたつ 夢中で追いかけてあちこちで捕えかけるが この手に残ったのはただ逃げたその跡 鼓直 訳

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

英知よ ぼくに授けてくれ 英知よ ぼくに授けてくれ もろもろの事物の正確な名前を ぼくの言葉がぼくの魂によって新たに造られた事物そのものであるようにそれらを知らぬすべての者が ぼくを越えてもろもろの事物に到達しうるようにそれらを忘れていたすべて…

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

眠りは 今日から明日へ 眠りは 今日から明日へ渡された橋その下を 夢のように水が流れる 鼓直 訳

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」 新潮社より

郷愁 心の海はのどかに脈打つ果しのない凪の中で星の背がきらめいている忘却と慰籍の空の下で 大きな魔法の洞穴にこもっているようだ世間の人のために着飾った春がいま出ていった洞穴に その春が残した非在の中の何という静けさ 孤独な悦び外で笑いさざめく…

サルヴァトーレ・クワジーモド 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

そしてすぐに夕暮れが たれもかれも独りになって地球の心臓のうえに立っている陽の光にさしぬかれてそしてすぐに夕暮れが 大空幸子 訳

マーク・ブキャナン 「複雑な世界、単純な法則」第10章

今から二十五年ほど前、進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、思想やアイデアが広まっていく道筋には遺伝のような要素があるかもしれないと示唆した。遺伝子が世代から世代へと受け渡されていくのと同じように、アイデア——ドーキンスは、アイデアは「ミ…

トーマス・シェリング 「ミクロ動機とマクロ行動」第3章

もし他の人もやっていたら、私も芝生の上を歩く。みんなが二重駐車をしていたら、私もやってしまう。みんなが礼儀正しく列を作っていたら、私も並ぶ。だがみんながチケット売り場に殺到し始めたら、乗り遅れないようにする。ただし、先頭集団には入らないよ…

トーマス・シェリング 「ミクロ動機とマクロ行動」第5章

プライバシーを大切にする人は、プライバシーを大切にする人と付き合う。必ずしもその人が好きだからではなく、プライバシーが守られるからだ。犬が嫌いな人は、犬嫌いな人といることを好む。必ずしもその人が好きだからではなく、単に犬がいないからだ。に…

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」剣と人形

子供のころからすでに彼女は、自分自身の運命がどう転ぼうと、人生は生きる価値があることを証してくれるにちがいないと信じて疑わなかったという。ほんの一年まえ、ナチがオランダを占領し、彼女はそれから逃れてきたのだが、その占領に続いた絶望の崩壊の…

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」種子と蒔く者

こんな調子で時がたった。わたしの戦闘の腕はメキメキ上達した。とりわけ、いま話したような急襲が得意だったために、大隊から選抜されて、敵の戦線のずっと後方にまわる急襲計画の立案と指揮をやらされることになった。急襲から戻ってくると、息抜きの休暇…

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」種子と蒔く者

セリエは語り出していた。「不思議だな、あの星はぼくのあとを追ってくるようだ。冬、アフリカの高地平原の空に昇ったところか、ベツレヘムの手前の丘陵の上に出たところを、見せたいね。バンタムのジャングルで真昼に見つけたこともある——でも、今夜ほど綺…

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」種子と蒔く者

「ね、分るだろう」とロレンスは感きわまった低い声で言った。「はるかな古里で弟が兄のなかに蒔いた種子は、沢山の土地に植えつけられたんだよ。あのジャワの捕虜収容所にもね。そうなんだ、日本兵がセリエをあんなふうに殺したことだってね、実は知らず知…

L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」影さす牢格子

どことなく類人猿を思わせる、先史時代物のハラの顔は、ロレンスがかつてみたことのない美しいものに変わっていた。その顔、その古代の瞳に宿る表情。あまりにも心を動かされた彼は、思わずもう一度、独房のなかに戻ってゆきたい衝動にかられた。実際、彼は…

村上春樹 「風の歌を聴け」

「でも結局はみんな死ぬ。」僕は試しにそう言ってみた。「そりゃそうさ。みんないつかは死ぬ。でもね、それまでに50年は生きなきゃならんし、いろんなことを考えながら50年生きるのは、はっきり言って何も考えずに5千年生きるよりずっと疲れる。そうだろ?」

ヘルマン・ヘッセ 「車輪の下」

学校の教師は自分の組に、ひとりの天才を持つより、十人の折り紙つきのとんまを持ちたがるものである。よく考えてみると、それももっともである。教師の役目は、常軌を逸した人間ではなくて、よきラテン語通、よき計算家、堅気な人間を作りあげる点にあるの…

ヘルマン・ヘッセ 「車輪の下」

先生たちはいつも、死んだ生徒を生きている生徒に対するとはまったく違った目で見るものである。死んだ生徒に対すると、先生たちはふだんはたえず平気で傷つけている一つ一つの生命や、青春のとうとさや、取り返しがたさをしばしのあいだ強く感ずるのである…

シモーヌ・ヴェイユ 「シモーヌ・ヴェイユ詩集」

星 夜 遠くの空を満たして燃えている星たちよ、いつも凍るように冷たく何も見ずに黙ってめぐる星たちよ、お前たちは昨日の日々をわれわれの心の外へと引き出し、お前たちはわれわれの同意なしにわれわれを明日へと投げる。そしてわれわれは嘆き悲しむ、だが…

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

忘却 温室に閉じこめられたガラス・ケースの中の花たちは 陽の輝かしさを忘れ露けき涼風の吹き過ぎ行く心地を忘れている。 中井久夫 訳

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

九時から 十二時半。九時からの時間の早さ。明かりを点けてここに座ったのは九時。本も読まず、口も開かずにずっと座っていた。家の中は私独り。誰に話しかけろというんだ? 九時に明かりを点けた時から、若かった私の身体の影が私に憑いて、思い出させた、過…

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

せめて出来るだけ 思いどおりに人生を創れなくとも、せめてやってみろ、出来るだけ、人生の品質を下げぬようにと。世間とは接触しすぎるな。動きすぎるな、話しすぎるな。 人生を広げ過ぎるな、引き廻すな、社交やパーティのくだらぬ日々に人生を曝し過ぎる…

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

単調 単調な日が単調な日を追う。どこも違わぬ日。違わぬことが来る。また来る。違わない瞬間が我等を捉え、放つ。 ひと月にひと月がつづく。何が来るか ほぼ見通しずみ。昨日と同じ退屈ばかりが来て、明日が「明日」でなくなる。 中井久夫 訳

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

声 死者の声。理想化された いとしい声。死者のでも 死者同然に近寄れない私を去ったひとの声でも。 そのひとたちが話しかけてくることがある、夢の中で。深い思いに沈んでいる時には こちらのこころが声を聴く、たまさかながら。 ああ その音調。刹那 音調…

カヴァフィス 「カヴァフィス全詩集 第二版」

ろうそく これから来る日は われらの前に燃えさかるろうそく。生き生きと暖かく金色に輝くろうそくの列。 過ぎた日 過去に置き去った日は燃え尽きたろうそくの陰々滅々の列。いちばん手前のは まだくすぶっているが曲がって 溶けて もう冷たい 見たくない、…

ホセ・マルティ 「黄金時代」

自由というのは、すべての人が誠実に、嘘偽りなく考え、話す時に持つことができる権利です。ラテンアメリカでは、誠実であることも、考えることも、話すことも出来ないで来ました。考えていることを秘密にしたり、それを、思い切って言おうとしなかったりす…

レイチェル・カーソン 「沈黙の春」

今は専門化の時代だ。みんな自分の狭い専門の枠ばかりに首をつっこんで、全体がどうなるのか気がつかない。いやわざと考えようとしない人もいる。

レイチェル・カーソン 「沈黙の春」

私たちは、いつもはっきりと目にうつる直接の原因だけに気を奪われて、ほかのことは無視するのがふつうだ。明らかな形をとってあらわれてこないかぎり、いくらあぶないと言われても身に感じない。 青木簗一訳