本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

J.デューイ「人類共通の信仰」

成立宗教は、自らが理想を独占し、またその理想を推進するための唯一の超自然的な方法をも独占していると、勝手に主張する。だが、自然界でなされる人間経験には、本来明らかに宗教的な価値がそなわっているのである。 栗田修 訳

J.デューイ「人類共通の信仰」

我々を動かす目的や理想は、我々のイマジネーションによって生みだされるのである。しかしながら、それは空想的な素材から作られるのではない。目的や理想は、自然と社会においてなされる人間経験の世界がもつ確固とした素材から作りだされるのである。・・…

J.デューイ「人類共通の信仰」

今日生きている我々は、はるか遠い過去から続く人類の一部である。自然とずっとこれまで相互作用してきた人類の一部分である。文明の中にあるもので、我々が最も大切にするものは、我々自身が作ったものではない。大切なものは、過去から永々と続く人間共同…

オルテガ・イ・ガセット「形而学上講義」

我々の生は何にもまして、未来と遭遇することである。我々が生きる第一のものは、現在でも過去でもない。生とは、前方にむけて執行される活動であり、現在と過去は、未来との関係からは、その後に発見されるのだ。 杉山武 訳

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第1部第5章

簡単にまとめると、食料生産を独自にはじめた地域は世界にほんの数カ所しかない。それらの地域においても、同じ時代に食料生産がはじまったわけではない。食料生産は、それを独自に開始した地域を中核として、そこから近隣の狩猟採集民のあいだに広まってい…

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第2部第10章

食料の生産を最初にはじめた地域のなかに、環境的に他の地域よりも食料生産に適した地域があったことはすでに指摘したが、食料生産が地域的に拡大していく過程においても、それが比較的容易であった地域と、そうでなかった地域が存在する。たとえば、環境条…

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」第3部第13章

われわれは、著名な例に惑わされ、「必要は発明の母」という錯覚におちいっている。ところが実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定のものを作りだそうとして生みだされたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあ…

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第3部第13章

食料生産は、定住生活を可能にし、さまざまなものを貯め込むことを可能にしただけではない。食料生産は、ほかにも人類の科学技術史で決定的な役割を果たしている。食料生産は、人類史上初めて、農民に生活を支えられた、非生産民の専門職を擁する経済システ…

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第3部第14章

このように、食糧生産と社会間の競合が大本の原因となって、詳細において少しずつ異なるものの、いずれも人口密度の高さと定住生活が関与する原因結果の連鎖がはじまる。そして、その過程を通じて、疫病をひき起こすような病原体が現れ、文字が発明され、さ…

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第4部第19章

アフリカとヨーロッパの衝突の結果が、ヨーロッパ人のアフリカへの入植になったことの直接の要因ははっきりしている。ヨーロッパ人は、アメリカ先住民に遭遇したときと同様、アフリカ人に対して三つの点で優位に立っていた——彼らは、銃をはじめとする技術を…

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」エピローグ

取るに足りない特異な理由で一時的に誕生した特徴が、その地域に恒久的に定着してしまい、その結果、その地域の人びとがもっと大きな文化的特徴を持つようになってしまうことも起こりうる。これが可能なことは、他の科学の分野では、最初の小さな差異が時間…

ラッセル「幸福論」第2章

いっさいは空であるという感情は、自然の欲求があまりにもたやすく満たされるところから生まれる感情である。人間という動物は、ほかの動物と同じように、ある程度の生存競争に適応している。だから、大きな富のおかげで、人間が努力しないでもおのれの気ま…

ラッセル「幸福論」第4章

あまりにも興奮にみちた生活は、心身を消耗させる生活である。そこでは、快楽の必須の部分と考えられるようになったスリルを得るために、絶えずより強い刺激が必要になる。多すぎる興奮に慣れっこになった人は、コショウを病的にほしがる人に似ている。そん…

ラッセル「幸福論」第7章

私たちの伝統的な道徳は、不当に自己中心的であった。そして、罪の観念は、こうした、愚かに愚かにも自己に注意を集中することの一部である。この、欠陥のある道徳によってかもし出された主観的な気分を味わったことのない人びとには、理性は不必要かもしれ…

ラッセル「幸福論」第10章

世界は果てしなく広く、私たち自身の力は微々たるものである。もしも、私たちの幸福のすべてがまったく個人的な環境と結びついているのであれば、どうしても、人生に与えられる以上のものを人生に求めるようになる。そして、あまりに多くを求めることは、得…

ラッセル「幸福論」第11章

人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、ますます運命に左右されることが少なくなる。かりに、一つを失っても、もう一つに頼ることができるからである。ありとあらゆることに興味を持つには、人生は短すぎ…

ラッセル「幸福論」第15章

深く愛していた人の死のような、慰めようのない悲しみについても、同じような考えがあてはまる。そういうときには、だれにせよ、悲しみにうち沈んだところで何の足しにもならない。悲しみは避けがたいものであり、覚悟してかかるほかはない。しかし、悲しみ…

ラッセル「幸福論」第17章

牢獄にいて幸福だというのは、およそ人間の本性ではない。そして、私たちを自己の殻にとじこめる情念は、最悪の牢獄の一つとなる。そういう情念のうち、最もありふれたものをいくつか挙げるなら、恐怖、ねたみ、罪の意識、自己へのあわれみ、および自画自賛…

G・ガルシア=マルケス 「コレラの時代の愛」

当時の彼はあまりにも若すぎて、記憶は悪い思い出を消し去って、いい思い出だけをより美しく飾りたてるものであり、その詐術のおかげで人は過去に耐えることができるのだということが分かっていなかった。船の手すりから、コロニアル風の地区のある白い岬や…

G・ガルシア=マルケス 「コレラの時代の愛」

「今ここでお父さんが死んだら」と言った。「お前がわたしの年になる頃には、ほとんど覚えていないだろうな」 父親は何気なくそう言ったのだが、涼しくて薄暗い事務室の中を死の天使が一瞬ふわりと漂い、羽根を残して窓から出て行った。しかし、少年はその羽…

G・ガルシア=マルケス 「コレラの時代の愛」

夫に仕えることでたしかに幸せを手に入れることができたが、死なれてはじめて、自分というものがないことに気がついた。あの家は一夜にしてだだっ広くてさみしい他人の家に変わり、彼女はそこに住みついた亡霊のようにさまよい歩きながら、本当に死んでしま…

ウワディスワフ・シュピルマン 「ザ・ピアニスト」

ちょうどその時、一人の少年が首から甘い物の入った箱を吊り下げ、群衆の間をかき分けて我々のほうへ近づいてきた。彼がお金というものをどう考えていたかはわからないが、彼は甘い物を法外な値段で売っていた。我々は小銭の残りをかき集め、たった一個のク…

ウワディスワフ・シュピルマン 「ザ・ピアニスト」

最初に湧いてきた感情は死ねなかったという失望ではなく、生きていたことがわかった歓びである。どんな犠牲を払っても失せることのない、果てしなき動物的な生への欲望だった。燃えさかる建物の中で一晩生き延びたのだ。現在の関心事は何とか自分を救うこと…

星野道夫 「ノーザンライツ」

「ドン・シェルドンは偉大なパイロットだったというだけでなく、山や空という無機質な世界をヒューマニズムの世界に変えていた。つまり彼がいることで、マッキンレー山もその空も生き生きと輝いていたのね」

星野道夫 「ノーザンライツ」

アラスカは一体誰の土地なのかと立ち上がった原住民土地請求運動は、これまであやふやのまま置き去りにされていたアラスカの土地所有の問題に対して、はっきりとした答を迫っていたのだ。その結果、アラスカは、アラスカ原住民、アラスカ州、そしてアメリカ…

星野道夫 「ノーザンライツ」

混沌とした時代の中で、人間が抱えるさまざまな問題をつきつめてゆくと、私たちはある無力感におそわれる。それは正しいひとつの答が見つからないからである。が、こうも思うのだ。正しい答など初めから存在しないのだと……。そう考えると少しホッとする。正…

宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」

「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら、峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」

宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」

(どうしてぼくはこんなにかなしいのだろう。ぼくはもっとこころもちをきれいに大きくもたなければいけない。あすこに岸のずうっと向こうにまるでけむりのような小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。ぼくはあれをよく見てこころもちをし…

サン=テグジュペリ 「星の王子さま」

おとなというものは、数字が好きです。新しくできた友だちの話をするとき、おとなの人は、かんじんかなめのことはききません。〈どんな声の人?〉とか、〈どんな遊びがすき?〉とか、〈チョウの採集をする人?〉とかいうようなことは、てんできかずに、〈その…