本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ナンシー・ウッド 「今日は死ぬのにもってこいの日」

たくさんの冬を わたしは生きてきた、 終わりない夏と戯れ、疲れきった大地を 最初の雪が降ってきて覆いつくした 時のそもそもの始まりから。 たくさんの冬 わたしは山々の頂きに水を捕らえて放さなかった、 月と太陽がみごとな円環を創り出した大地の始まり…

ナンシー・ウッド 「今日は死ぬのにもってこいの日」

この手で翼の折れた鳥をわたしは運んだものだ。この手で、太陽の下わたしはわたしの子どもたちに触れたものだ。この手で、わたしは生きた土の家を建てた。この手で、育ちゆくトウモロコシ畑を耕してきた。この手で、生きる術を学んだのと同じくらい、殺す術…

ナンシー・ウッド 「今日は死ぬのにもってこいの日」

私たちには、自分を偽ることなんてとてもできやしない。お金と所有が人を幸せにするなんてことを、信じるふりをして世を渡ることなど、どうしてできるだろう?口を開けば白人は、わたしたちにはもっと物が必要だと言う。しかし物を持てば、わたしたちはその…

五木寛之 「大河の一滴」

考えてみると十九世紀来、われわれはものすごく傲慢だった。その傲慢ななかで、ぼくたちは大きな過ちを犯しつづけてきたのではないでしょうか。ぼくたちは自分たちが地球上のことを全部わかるような気持ちになっていた。でも、本当にわかっていることはごく…

五木寛之 「大河の一滴」

人間はただ肉体として生きるだけでなく記憶のなかにも、そして人間関係のなかにも生きている。その人間の死が完成するまでにはやっぱり十ヶ月や一年ぐらいかかるのじゃないか。これがぼくのかたくなな考えです。 人間的な死ということを考えないで、科学的な…

トルストイ 「戦争と平和」第1部

〈生きている者と死んだ者をへだてている一線を思わせるこの線を一歩越えたら——不可思議と、苦悩と、死だ。そして、その向こうには何があるんだ?向こうにはだれがいるんだ?向こうの、この野原や、木や、太陽に照らされている屋根のかなたには?だれも知ら…

トルストイ 「戦争と平和」第1部

・・・ナポレオンの顔をまともに見つめながら、アンドレイは偉大さというものの小ささについて、だれも意義のわからない生というものの小ささについて、そしてまた、生きているものはだれひとりその意味がわからず、説明もできない死というものの、生以上の…

トルストイ 「戦争と平和」第3部

人間はだれでも自分の個人的な目的をとげるために、自由を行使して、自分のために生きており、自分はこれこれの行為をしたり、あるいは、しなかったりすることができると、心底から感じている。ところが、その人間がそれをするとたちまち、時間の流れのある…

トルストイ 「戦争と平和」第4部

捕虜になって、収容所で、ピエールは頭ではなく、自分の全存在によって、生命によって知った——人間は幸福のために創られているのだ、幸福は自分自身のなかに、自然な人間的欲求を満足させることのなかにあるのだ、そして、すべての不幸は不足ではなく、過剰…

トルストイ 「戦争と平和」あとがき

・・・我々の最大の自由と最大の不自由の条件を観察してみると、我々の行為が抽象的であればあるほど、したがって、他人の行為との結び付きが少なければ少ないほど、それは自由であり、逆に、我々の行為が他人と結び付いていればいるほど、不自由だというこ…

L・ヴァン・デル・ポスト 「アフリカの黒い瞳」

どうもわれわれは時間の意味を誤用し、完全に誤解していると思うのです。われわれのヨーロッパ的時間概念は浅薄で未熟であり、時間の充全の本性を無視し、それに対して無知であり、われわれのトラブルの若干は直接この無知に起因しているように思われます。…

L・ヴァン・デル・ポスト 「アフリカの黒い瞳」

わたしたちは人間の出来事のなかの生得の生ける有機的な時間を活用しようとしないのですから、せっかくの宝も絶えまなくもちぐされとなる状態なのです。わたしたちはできもしないのに性急な解決を強行しようとし、明日にならねば生まれてこぬものを、今日産…

L・ヴァン・デル・ポスト 「アフリカの黒い瞳」

わたしがこれまで会ったなかで、最も純朴かつ賢明なアフリカの年老いたハンターが、かつてわたしに話してくれたことがございました。「アフリカの白人と黒人との違いは、白人は『所持しており』、黒人は『存在している』ところにあるのだ」。一言で言えばこ…

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 「ビッグデータの正体」第1章

人間の社会は、これまで何千年にもわたり人間の行動を解明し、おかしなことをしないように常に目を光らせてきた。しかし、コンピュータのアルゴリズムは何をしでかすかわからない。コンピュータ時代に入って当局者は、プライバシー侵害の脅威を感じ取り、個…

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 「ビッグデータの正体」第2章

あるコミュニティ内で多くの接点を持つ人がいなくなると、残った人々の交流は低下するものの、交流自体が止まることはない。一方、あるコミュニティの外部に接点を持つ人がいなくなると、残った人々はまるでコミュニティが崩壊してしまったかのように、突如…

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 「ビッグデータの正体」第4章

ビッグデータの時代が成熟すれば、相関分析による新たな洞察力が生まれ、予測の効果が高まる。過去には見えなかったつながりが見えはじめ、どれほど努力しても把握しきれなかった技術や社会の複雑な力学が把握できるようになる。何より重要なのは、相関を使…

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 「ビッグデータの正体」第8章

これまでのようにプロファイリングを実施するにせよ、差別的な側面をなくし、もっと高度に、個人単位で実行できるようになる。それがビッグデータに期待できるメリットだ。そう言われると、あくまで良からぬ行為の防止が狙いなら、受け入れてもよさそうな気…

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 「ビッグデータの正体」第9章 第10章

原子力からバイオまで多くの分野に言えることだが、人類は最初にツールを作り出し、やがてそれが我々に害をもたらしかねないことに気付く。その後、ようやく安全確保の仕組みづくりに乗り出す。ビッグデータも、絶対的な解決策のない難題をいずれ我々に突き…

中野剛志 「グローバリズムが世界を滅ぼす」より

ちなみに、新自由主義を採用すると、不思議なことに政権が長続きする。たとえばサッチャー政権、レーガン政権、小泉政権です。格差を生み、弱者を増やす新自由主義の政権は、一見、国民の支持を得られずに短命で終わるように思われます。しかし、妙なことに…

エマニュエル・トッド 「グローバリズムが世界を滅ぼす」より

自由貿易が生み出す根本の問題は、経済活動の実践の仕方である前に、一つのイデオロギーです。どういうことかというと、企業が、自分たちは国内市場のために生産するのではなく、外部市場のために生産するのだという考えに傾いていくのです。 こうした状況で…

リルケ 「リルケ全集第4巻」

夜の散歩 何ものも比較することはできない。なぜならそれ自身とだけで全体でないものとは何だろう、そして発言され得るものとは。私たちは何ものをも名づけないで ただ耐えていれば了解し合うことができる。そこでは輝きがそしてあそこで眼差しが、おそらく…

リルケ 「リルケ全集第3巻」

別れを告げよう、ふたつの星のように 別れを告げよう、ふたつの星のように。距離で自らの存在を確かめ もっとも遠いもので自らを認識する、そういう近さでもあるあの圧倒的な夜の空間に分け隔てられた ふたつの星のように。 小林栄三郎 訳

リルケ 「リルケ全集第3巻」

海の歌 カプリ、ピッコラ・マリナ 海から吹いてくる太古の風、夜の海風、—— おまえは 誰のところにも吹いてくるのではない、誰か目覚めているものがあるならば、どのように おまえに耐えうるものかを知らねばならぬだろう。 海から吹いてくる太古の風、それ…

リルケ 「リルケ全集第3巻」

錬金術師 奇妙な笑いをうかべ 実験室の彼はやや落ちついて煙をあげているフラスコを押しやった。いとも高貴なものが フラスコのなかに生ずるにはなお なにを必要としたか いま 彼は知った。 彼は時間を必要としたのだ。数千年をおのれと 煮えたつフラスコと…

リルケ 「リルケ全集第3巻」

詩人 時間よ、おまえは 私から遠のいていく。おまえの羽ばたきが 私に傷を負わすのだ。いまは孤独、私の口を 私の夜をそして私の昼を 私はどうしたらいいのか? 私には 恋人もいなければ 家もない私の生きていく場所もない。すべての事物に 私が着手すると、…

リルケ 「リルケ全集第2巻」

厳粛な時 いまこの世のどこかで泣いているひと わけもなくこの世で泣いているひとは わたしのために泣いている。 いまこの夜のどこかで笑っているひと わけもなくこの夜に笑っているひとは わたしを笑っている。 いまこの世のどこかであるいているひと わけ…

チャールズ・A・リンドバーグ 「翼よ、あれがパリの灯だ」

私はついにパリ途上の、最初の短い海辺の上空にただひとりとなった。海面はおだやかである。水面の油のようになめらかな輝きの下には、少しもうごきらしいものは見えない。コネチカット川の岸まではわずかに三十五マイルだが、私はいままでこんな大きな川を…

チャールズ・A・リンドバーグ 「翼よ、あれがパリの灯だ」

単独で飛行するのは、なんと得るところが多いことか! 私は、父が何年か前、他人を頼りすぎることに対して戒めてくれたのがいまわかった。父はミネソタの古い移住者のことばをよく引用して教えたものだ——「ひとりはひとり、ふたりになると半人前、三人ではゼ…

チャールズ・A・リンドバーグ 「翼よ、あれがパリの灯だ」

果てしない水平線と無限の水のひろがりを前方に見ながら、私は改めてこんな飛行を企てた私の思い上がりに、いまさらのように驚く。私は陸地を見捨てて、いま、人間によって発明された最ももろい乗物に乗って、海洋へと向かっているのだ。どうして私は、揺れ…

チャールズ・A・リンドバーグ 「翼よ、あれがパリの灯だ」

私の目には、操縦席の闇のなかの変化を感じる。窓の外を見る。あれが同じ星だろうか?これは同じ空だろうか?なんという輝かしさだ!なんという明るさだ!やっと到達した安全!輝き、明るさ、安全だって?しかしこれは、私が出発した同じ地上の時間とつなが…