本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ミヒャエル・エンデ「自由の牢獄」

「生まれてからこれまでというもの、おまえはあれやこれやと決めたときに、理由があると信じていた。しかし、真実のところ、おまえが期待することが本当に起こるかどうかは、一度たりとも予見できなかったのだ。おまえの理由というのは夢か幻想にすぎなかっ…

リルケ「若き詩人への手紙」

一つの芸術作品に接するのに、批評的言辞をもってするほど不当なことはありません。それは必ずや、多かれ少なかれ結構な誤解に終るだけのことです。物事はすべてそんなに容易に摑めるものでも言えるものでもありません、ともすれば世人はそのように思い込ま…

リルケ「若き詩人への手紙」

必然から生まれる時に、芸術作品はよいのです。こういう起源のあり方の中にこそ、芸術作品に対する判断はあるのであって、それ以外の判断は存在しないのです。だから私があなたにお勧めできることはこれだけです、自らの内へお入りなさい。そしてあなたの生…

リルケ「若き詩人への手紙」

あなたの御判断に、それ自身の静かな、乱されない発展をお与えになって下さい。それはすべての進歩と同じように、深い内部からこなければならぬものであり、何物によっても強制されたり、促進されたりできるものではありません。月満ちるまで持ちこたえ、そ…

リルケ「若き詩人への手紙」

ごく微かな、ほとんど口に出しては言うことのできないようなものを解き明かさなければならない時、どんなにすぐれた人々でも言葉に誤ちを犯すものなのです。 高安国世 訳

リルケ「若き詩人への手紙」

孤独が大きなものであることに気づかれたならば、それをお喜び下さい。なぜなら(そうあなたは自問なさって下さい)偉大さを持たない孤独とは何ものであろうか、と。孤独はただ一つあるきりで、それは偉大で、容易ににない得られないものです。そしてほとんど…

リルケ「若き詩人への手紙」

それから再び孤独についてお話ししますと、人が選んだり、手放したりすることのできるものは、本当のところつまらないものだということが、ますます明らかになってきます。私たちは孤独なのです。それをごまかして、あたかもそうでないかのように振舞うこと…

リルケ「若き詩人への手紙」

私たちに出あうかも知れぬ、最も奇妙なもの、奇異なもの、解き明かすことのできないものに対して勇気を持つこと。人間がこれまで、こういう意味において臆病であったことが、生に対して数限りない禍をもたらしたのです。「幻影」と呼ばれる体験や、いわゆる…

リルケ「若き女性への手紙」

芸術作品に、人を助けることができようなどと、期待することはむしろ思いあがりというものでしょう。しかし一つの芸術作品が自らの中に持ち、それを外へ用いようとしないで、ただ単にそこに存在することによって、あたかもそれが努力であり、要求であり、求…

ハイゼ (リルケ「若き詩人への手紙 若き女性への手紙」訳者後記より)

それから私は海を見ました。幾度も幾度も行って見ました。私はそれを自分のものにしたい、どうにかして自分の一部にしたいとあせりました。しかしそれは私には入り込むすきを見せませんでした。自己自身に満ち、自己自身を相手にしているこの存在には、入り…

バルザック「ゴリオ爺さん」

おそらくある種の連中は、いっしょに暮らしている人びとからはもはやなにものも得ることができないのだ。自分たちの魂の空虚をすっかりさらけ出してしまったあとで、彼らは自分たちが、当然の厳しさでもって批判されていることをひそかに感じている。けれど…

バルザック「ゴリオ爺さん」

「パリではいったいどうやって、みんなおのが道を切りひらくのか、きみは知っているかね。天才の輝きか、さもなければ上手に堕落することによってなのさ。人間のこの巨大なかたまりのなかにはいっていくには、大砲の弾丸みたいにぶつかっていくか、さもなけ…

バルザック「ゴリオ爺さん」

「ご馳走を食べたければ手を汚すしかない。ただあとでその手を洗っておくのだけは覚えておくことだ。現代の道徳とはつまりそれなんだから。わしが世間のことをこんなふうに語るのも、世間がわしにその権利をあたえたから、つまりわしが世間を知っているから…

バルザック「ゴリオ爺さん」

「人間の感情なんて広い環のなかでだろうと、小さな円のなかでだろうと、おなじように充分に満足させられるものだからね。・・・人間の幸福なんて、どっちみち足の裏から後頭部までのあいだの話だ。」 高山鉄男 訳

バルザック「ゴリオ爺さん」

青年というものはだれでも一定の法則にしたがって生きるものだ。その法則は一見不可解のように見えるが、じつは若さそれ自体や、青年たちが快楽に向かって突進する狂熱的な激しさに由来するものにほかならない。貧富を問わず、青年は、生活に必要な金にはい…

バルザック「ゴリオ爺さん」

世間というものが、一度足をつっこむと首までつかってしまう泥沼のようなものに、彼の目には見えていた。「けちくさい罪ばかりが行われているんだ」と、ウージェーヌは思った。「そこへいくとヴォートランはたいしたものだ」ウージェーヌは〈服従〉と〈闘争…

バルザック「ゴリオ爺さん」

「美しい魂はこの世間に長くとどまることができないのだ。実際、偉大な感情が、こせついた、卑小な、そして浅薄な社会などとかかわりあいをもてるはずがないではないか」 高山鉄男 訳

バルザック「ゴリオ爺さん」

「医者も経験をつむと病気しか目に入らなくなる。しかしぼくにはまだ病人が見えるのだよ」 高山鉄男 訳

バルザック「ゴリオ爺さん」

「子供ってのはどんなものか、死んでみなけりゃわかりはせんのじゃ。ああ、ウージェーヌさん、結婚なんかするものじゃない、子供なんか、もつもんじゃないな。子供たちには命を与えてやっても、お返しには死をくれてよこす。この世に命を受けさせてやったの…

サマセット・モーム「月と六ペンス」

ストリックランド夫人は、生まれつき同情心に満ち溢れていた。この種の性質は魅力的ではある。が、人は、自分に同情心があるのだと気づくと、ついつい過剰にそれを使ってしまうものでもある。 なぜそんな言い方をするかといえば、彼らが友人の不幸に対して、…

サマセット・モーム「月と六ペンス」

「もちろん奇跡が起こって、あなたが偉大な画家になることもありうるでしょう。しかし、その可能性が百万にひとつだということは、あなたも認めるはずだ。最後になって、一生を台無しにしただけだったとわかるのは、絶望以外のなにものでもないでしょうに」…

サマセット・モーム「月と六ペンス」

「この世でもっとも貴重なものである美がだね、まるで浜辺の石ころみたいに、通りすがりのボヤッとした人間がいいかげんな態度で拾えるような、そんなものであっていいと考えているのかい? 美はね、素晴らしいもの、不可思議なものなんだ。芸術家が彼の魂の…

サマセット・モーム「月と六ペンス」

「この世は、辛くてきびしいものだよ。ぼくらは、わけも知らされずにこの世に生まれ、また、どことも知れないところに去っていかなければならない。だから、本当に謙譲でなければいけないんだ。無事平穏であることの美を讃えなければならない。運命の神がぼ…

サマセット・モーム「月と六ペンス」

私たちは皆、世界の中で孤立している。真鍮の塔に閉じ込められ、他の人々とは記号でしか通じ合えない。そして、その記号は、誰にとっても共通の価値を持つとは言えないのだ。したがって、意味はあいまいで不確かにしかなりえない。 私たちは、哀れにも、心の…

アントニオ・タブッキ「島とクジラと女をめぐる断片」

手のつけられない凪で、灼熱の太陽が照りつけ、大洋にぼってりとした暑気がのしかかるといった、そんな日々こそ、クジラたちが、陸にいた遠い祖先の記憶に戻ることを許される稀有な時間なのではないかと、僕は想像する。そのためには、あまりにも密度の濃い…

アントニオ・タブッキ「島とクジラと女をめぐる断片」

僕たちの人生の歩幅は、ときに、みじかい言葉にさそわれて変ることがある。 須賀敦子 訳

サマセット・モーム「人間の絆」

時々、彼は、人と一緒にいるのが、たまらなく不安になり、強く孤独を欲することがある。そんな時は、彼は、ひとり郊外へ散歩に出るのだったが、そこには、緑の野をわけて、小川が一筋流れており、両側には、刈り込まれた木立がずっと並んでいる。その堤を歩…

サマセット・モーム「人間の絆」

最初、フィリップは、ローズの友情に対しては、ただ感謝あるばかりで、したがって、彼の方からは、なにも要求しなかった。ただあるがままに、物事を受け取り、それで十分、幸福だった。だが、そのうちには、ローズの八方美人ぶりが、たまらなくなった。もっ…

サマセット・モーム「人間の絆」

フィリップは、六年生に進級した。だが、今では学校そのものを、心から憎んだ。野心が失くなってみると、よくできようと、できまいと、そんなことはどうでもよかった。朝、目が覚めても、また一日、たまらない苦役かと思うと、がっかりした。命令だから、し…

サマセット・モーム「人間の絆」

「むろん学校というものはね、普通の人間のためにできているのだ。孔はな、みんな円いものときまっとる。栓の方で、まあ、どんな形をしているにしろだな。なんとか、それらに嵌らなくちゃいかん。普通の人間以外のものに、そう、かかずらっている時間は、な…