本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

角幡唯介「漂流」終章

私が追いもとめたのは土地や海、すなわち人間には制御できないどうしようもない自然がそこに属する人の生き方に強制的に介入をする世界であり、そこできずかれる人間と世界との強固な関係性だった。それはつまりニライカナイをそばで感じて生きてきた人々の…

角幡唯介「漂流」第8章

陸の人間は船乗りという人種全般にたいして、勝手気儘に大海原を行き来する自由な存在という固定観念をもちがちだが、船に乗ってみて、私は、それが物事の一面しか見ていない不十分な見方であることを痛感していた。たしかに彼らは自由なのかもしれない。し…

角幡唯介「漂流」第4章

個人的な話になるが、私が北極やヒマラヤの辺境のようなところに冒険旅行をくりかえすのは、日常生活のなかで死を感じられなくなったからだと思っている。消費文化の価値観にどっぷりと浸かった現代の都市生活においては生や死のいっさいは漂白され、われわ…

角幡唯介「漂流」第1章

最初は話すのが面倒なので、私を体よく追っ払うために忘れたと言っているのかと思っていたが、しかしあまりにそれがつづくので、途中からは、もしかしたらこの人たちは本当におぼえていないのではないかと考えざるをえなくなった。もしかしたら彼らの時間感…