本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「クラウド化する世界」第6章

  しかしワールドワイドウェブは、バーナーズ=リーが意図し、多くの人々が切望したものとは全く異なっていた。テキストの表示だけではなく、画像の表示やトランザクション処理も行える汎用媒体を作ったことによって、ウェブはインターネットを知的集会所から営利企業へと変えた。バーナーズ=リーが発明を公開した直後の短い期間、ウェブでは商業活動は全く行われていなかった。1993年末の時点で、ドットコムのドメインにあるサイトは五パーセントに満たなかった。しかし、新しい媒体の収益力が明らかになると企業が殺到し、商業的なサイトが急速にネットワークを支配するようになった。1995年末には、全サイトの半分はドットコムのアドレスを持ち、1996年半ばになると、商業的サイトは全体のほぼ七十パーセントを占めた。 "サマー・オブ・ラブ"から三十年後、若者たちが再びサンフランシスコに集まり始めた。しかし、その目的は自由詩を聞くことでも、麻薬に耽るためでもなかった。若者たちは荒稼ぎするために来たのだ。ウェブは心の拠り所ではなく、ビジネスの拠り所となった。
  インターネットはこれまで常に、その動作の仕方でも、利用のされ方、認識のされ方でも、多くの矛盾に満ちた仕組みだった。インターネットは、官僚的支配の道具でありながら個人を解放する道具でもあり、共同体の理想と企業の収益の双方につながる導管である。ネットが世界的なコンピューティングネットワークとなり、多目的技術として利用される機会が増えるにつれて、こうした技術的・経済的・社会的緊張はより顕著になりつつある。この緊張を解決することが、良くも悪くも、来るべき時代にネットワークがどのような結末を迎えるかを決めるだろう。

 

村上彩 訳