本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「クラウド化する世界」第7章

ここで、ユーチューブの事例をもっと詳しく見てみよう。ユーチューブは、放映している何十万タイトルものビデオに一セントも払っていない。すべての制作コストは、サービスのユーザーが負担している。ユーザーはディレクター、制作者、執筆者、役者であり、その作品をユーチューブのサイトにアップロードすることで、実質的には労働力をユーチューブに寄付している。「ユーザーがコンテンツを制作する」という貢献の仕方は、インターネット上ではごく普通のことで、ユーザーたちはさまざまなウェブビジネスに原材料を提供しているのである。何百万人もの人々がブログやブログのコメントを通じて共有している表現や思想は、企業によって収集・配給されている。オープンソースソフトウェアプロジェクトに貢献している人々もまた、労働を寄付している。しかも、彼らの努力の産物が、IBM、レッドハット、オラクルといった営利企業によって商品化されることがあるにもかかわらずである。人気のオンライン百科辞典であるウィキペディアは、ボランティアによって執筆・編集されている。地域情報検索サイトのイェルプ(Yelp)も、会員が寄稿するレストラン、店舗、地域アトラクションのレビューに支えられている。通信社のロイターは、アマチュアから寄せられた写真やビデオをシンジゲート化しているが、使用料は払ってもごくわずか、大半は無報酬である。マイスペースフェイスブックのようなソーシャルネットワーキングサイトや、PlentyOfFishのような出会い系サイトは、基本的に会員の独創的で無給の貢献が集約されてできあがっている。昔の小作農業さながらのねじれ構造のなかで、サイトのオーナーたちは土地と道具を提供して、会員にすべての作業をやらせて、経済的な報酬を獲得しているのである。

人々がこの種のサイトに貢献する最大の理由は、趣味を追求したり、慈善の目的のために時間を割く理由と大差ない。つまり、楽しいからである。満足感を得られるからである。

ただし、これまでと違うのは、貢献の範囲、規模および洗練の度合いであり、等しく重大なのは、無報酬の労働を戦力化し、それを価値ある商品やサービスに変えてしまう企業の能力なのである。

もちろん、これまでもボランティアは常に存在した。しかしいまや、以前とは比べ物にならないスケールで、無給の労働者が有給の労働者に取って変わることができるのだ。業界はこの現象を言い表す用語まで考えついた。すなわち、クラウドソーシングである。生産手段は大衆の手に渡しておきながら、その共同作業の産物に対する所有権を大衆に与えないことで、ワールドワイドコンピュータは多くの人々の労働の経済的な価値を獲得して、それを少数の人々の手に集約するための極めて効率的なメカニズムを提供しているのである。

村上彩 訳