本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ニコラス・G・カー 「クラウド化する世界」第7章

  これらの事業が実証しているのは、経済学者が「規模に対して収穫逓増」と呼ぶ、通常とは異なる経済的行動である。要するに、多く売れば売るほど、より儲かる、という意味だ。その原動力は、産業界で優勢な力とは全く異なるものである。なぜなら、往来のビジネスは、「規模に対して収穫逓減」の支配下にあるからだ。物理的な商品の生産者がその生産高を増やすと、遅かれ早かれ、製品を作って売るのに必要な原料、部品、供給、不動産および労働者への投入に対して、より多くを支払わなければならなくなる。生産者は「規模の経済」を達成することで、投入コストの上昇を相殺することができる。しかし最終的には、コスト上昇が「規模の経済」を圧倒して、企業の利益すなわち収穫は縮小し始める。この収穫逓減の法則が有効に働くと、企業の規模、あるいは少なくとも企業の利益の規模に制限を課すことになる。
  最近まで、情報商品の大半も、収穫逓減の支配下にあった。なぜなら、情報商品は物理的な方法で流通せざるを得なかったからだ。言葉は紙に印刷し、動画はフィルムに撮影し、ソフトウェアコードはディスク上へ書き込まなければならなかった。しかしインターネットは、情報商品を形のない1と0の羅列に変えて、物理的な流通から解放するとともに、収穫逓減の法則からも解放した。デジタル商品は、基本的にコストをかけずに無限に複製することができるので、生産者は事業が拡大しても、原材料の購買を増やす必要はない。さらに多くの場合、ネットワーク効果という現象によって、デジタル商品を利用する人数が増えるとともに、その商品の価値も上がっていく。・・・売り上げや利用者数が増えるにつれて、収益も拡大していくのだ——それも無限大に。

 

村上彩 訳