本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

モーム「サミング・アップ」

  第一に、美は終止符だと分かった。美しいものを見ていると、私はただただ感心して眺めているしかないのだった。それが与えてくれる感動は素晴らしいが、感動は持続しないし、無限に感動を繰り返すことも出来なかった。それで、この世の最高に美しいものも結局私を退屈させた。試作品からならもっと長続きする満足が得られるのに気付いた。完璧な出来ではないので、却って私が想像力を働かせる余地があった。あらゆる芸術作品の中で最高の作品においては、あらゆるものが表現されているので、私が出来ることは何もない。そこで私は落ち着きを失い、受身で眺めているのに飽きてしまう。美は山の頂上のようだと思った。そこまで辿り着いたら、後は下りるしかない。完璧というのはいささか退屈である。誰もが目標としている最高の美は完璧に達成されないほうがいいというのは、人生の皮肉の中でもかなりひどいものだ。

 

行方昭夫 訳