本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

今日の大衆は以前のいかなる時代の大衆人よりも利口であり、より多くの知的能力をそなえている。だがその能力も、彼らのために何の役にも立っていない。厳密にいうと、能力をそなえているという漠然とした意識は、彼らが自分の中に閉じこもり、能力を使わないということに役立っているだけである。大衆人は偶然が彼の内部に堆積したきまり文句、偏見、思想のきれはし、あるいは無意味な言葉の在庫品を断固として神聖化し、それを大胆にもあらゆるところで他人に押しつけているが、その大胆さたるや、彼らが単純だからという他には説明のしようがない。・・・つまり凡庸な人間が、自分はすぐれていて凡庸ではないと信じているのではなく、凡庸な人間が凡庸さの権利、もしくは権利としての凡庸さを宣言し、それを強引に押しつけているのである。

 

桑名一博 訳