本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

オルテガ・イ・ガセット「大衆の反逆」

こうした専門家こそ、私が今までさまざまな側面と様相から明らかにしようとしてきた新しい奇妙な人間の見事な一例である。私は先に、こうした人間形成は歴史に先例がないと言っておいた。専門家は、この人間の新種を極めてはっきりと具体化してくれ、この新種の持つ根本的な新しさの一切を見せてくれる。なぜならば、以前は人間を単純に、知識のある者と無知なる者、多少とも知識のある者と多少とも無知なる者とに分けることができた。ところが専門家は、その二つの範疇のどちらにも属させることができないからだ。専門家は知者ではない。というのは、自分の専門以外のことをまったく何も知らないからである。と言って無知な人間でもない。なぜなら、彼は「科学者」であり、彼が専門にしている宇宙の小部分については大変よく知っているからだ。われわれは彼を知者・無知者とでも呼ばねばならないだろう。これは極めて重要なことである。というのは、そうした人間は自分が知らないあらゆる問題についても、無知者として振舞わずに、自分の専門分野で知者である人がもつ、あの傲慢さで臨むことを意味しているからである。

 

桑名一博 訳