本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

チャールズ・A・リンドバーグ 「翼よ、あれがパリの灯だ」

  単独で飛行するのは、なんと得るところが多いことか! 私は、父が何年か前、他人を頼りすぎることに対して戒めてくれたのがいまわかった。父はミネソタの古い移住者のことばをよく引用して教えたものだ——「ひとりはひとり、ふたりになると半人前、三人ではゼロになる」これはインディアンが敵意を持っていた当時、猟をしたり、わなをかけたり、偵察したりすることに関係があったのだ。これはなんと現代生活に、そしていまの私の飛行にぴったりあてはまることか。単独飛行によって、私は方角と時間の融通性を自分にまかされた。そして何よりも私は自由を得たのだ。私は、私の計画に通じている同乗者を一名も連れて行かねばならぬことはなかった。私の行動は、他人の気性や健康や、あるいは知識によって制限されなかった。私の決定は他人の生命に責任を持つことで重圧を感じなくてよいのだ。昨夜天候が良好に向かいつつあるのを知ったとき、私はだれにも相談しなかった。私はただ、セント・ルイス号を明け方に備えるように命令することが必要だっただけだ。私が泥んこの滑走路や追い風のなかで操縦席にすわっているとき、だれひとりとして「くそ、やらせたらいいや!」とか、「どうもよくないようだな」などといって、私の判断をぐらつかせる者もいなかった。私はまた、ひどい口論や気の重い組織上の問題に巻き込まれることもなかった。いまの私は、なんの束縛も受けずに私の心と感覚の命ずるままに、前進もできるし、また引き返すこともできるのだ。父のことばに従えば、私は完全に一人前の——独立した——私だけの男なのだ。

 

佐藤亮一 訳