ルソー「エミール」第2編
子どもを不幸にするいちばん確実な方法はなにか、それをあなたがたは知っているだろうか。それはいつでもなんでも手に入れられるようにしてやることだ。すぐに望みがかなえられるので、子どもの欲望は絶えず大きくなって、おそかれはやかれ、やがてあなたがたの無力のために、どうしても拒絶しなければならなくなる。ところが、そういう拒絶になれていない子どもは、ほしいものが手にはいらないということより、拒絶されたことをいっそうつらく考えることになる。かれはまず、あなたがもっているステッキがほしいという。つぎには時計がほしいという。こんどは飛んでいる鳥がほしいという。光っている星がほしいという。見るものはなんでもほしいという。神でないのに、どうしてそういう子どもを満足させることができよう。
今野一雄 訳