本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

  そのうえ、最新のリサーチで、戦時中には確かに精神的な犠牲者はいるものの、ストレス、退屈、先天的な病気、寂しさ、拒絶による犠牲者よりずっと少なかった。コミュニティが大きな問題に直面する時、例えば、戦争、超インフレ、疫病などだが、自殺者数にほんの少し増加が見られるものの、鬱病パラノイアや精神病は確実に減少している。それは、その問題が克服されればすぐにいつもの数値に戻ることから、イゴール博士によれば、人は狂うという贅沢を、そうできる立場にいる時だけ許すものだった。
  博士の目の前にはもう一つ調査があり、今度は、アメリカの新聞が最高の生活水準として選んだカナダのものだった。イゴール博士は読んでみた。
〈カナダ統計〉によると、15歳から34歳までの40%と、35から54までの33%と、55から64までの20%の人たちは、すでに、ある種の精神病に苦しんでいた。五人に一人が、ある種の精神障害に苦しみ、八人に一人のカナダ人が、一生に一度は、精神的な問題のために入院することになっている。
「我々より、マーケットが大きいな」と彼は思った。「人が幸せであればあるほど、不幸せなものなんだ」

 

江口研一 訳