本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

タゴール「ギタンジャリ」

29
わたしの名前で 閉じこめられた彼は
この地下牢で 泣いている。
わたしはまわりに 壁を築くのに いつもいそがしい。
この壁が 日ごとに空にまでのびて行き
わたしは その暗い蔭の中に
わたしの本性を 見失う。

 

この大壁を わたしは誇りとし
ほんの小さな 穴ひとつでも
この名前のために 残してはいけないと
塵と砂とで ぬりかためる。
そうして わたしが気をつかうので
わたしは わたしの本性を見失う。

 

高良とみ 訳