本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーベ・ヤンソン 「島暮らしの記録」

  わたしたちは島の変貌に浮かれ、期待に胸を踊らせ、見境もなく雪の中を走りまわり、航路標識に雪玉をぶつけた。トゥーティは鼻づらを反らせた橇を薄い羽板で造り、わたしたちは岩山の頂上から凍った海をめがけて何度も滑りおりた。
  はしゃぐのに飽きてしまい、腰をおろして感覚を研ぎすます。海は右も左も見渡すかぎり真っ白だ。そのときはじめて完璧な静寂に気づいたのである。
  自分たちが声を低めて喋っていることにも。 

 

  さて、長い待機が始まった。わたしは孤立とは似ても似つかぬ、新手の隠遁にはまりこむ。だれともかかわらず、部外者を決めこみ、なんにしろ良心の呵責はいっさい感じない。なぜかはわからないが、なにもかもが単純になり、ただしあわせだと感じるに任せる。
  トゥーティは氷を鋸で挽き、ごみ捨て用の穴をくり抜いた。
  わたしたちはますます言葉少なになり、日々の仕事をするにも自分ひとりでいるかのように振るまう。とても穏やかな気持ちだ。

 

富原眞弓 訳