本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

サン=テグジュペリ 「人間の土地」砂漠のまん中で

  さようなら、ぼくが愛した者たちよ、人間の肉体が、三日飲まずには生きがたいとしても、それはぼくの罪ではない。ぼくもじつは知らなかった、自分がかほどまで、泉の囚われだとは。ぼくは、疑わなかった、自分に、こんなにわずかな自治しか許されていないとは。普通、人は信じている、人間は、思いどおり、真っすぐに突き進めるものだと。普通、人は信じている、人間は自由なものだと……。普通、人は見ずにいいる、人間を井戸につなぐ縄、臍の緒のように、人間を大地の腹につなぐその縄を。井戸から一歩遠ざかったら、人間は死んでしまう。

 

  ぼくには、何の後悔もない。ぼくは賭けた。ぼくは負けた。これはぼくの職業の当然の秩序だ。なんといってもぼくは、胸いっぱい吸うことができた、爽やかな海の風を。

  一度あの風を味わった者は、この糧の味を忘れない。そうではないか、ぼくの僚友諸君?問題はけっして危険な生き方をすることにあるのではない。この公式は小生意気だ。闘牛士はぼくの気に入らない。危険ではないのだ、ぼくが愛しているものは。ぼくは知っている、自分が何を愛しているか。それは生命だ。

 

堀口大学

*ぼくの職業→飛行士