本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  愛、睡眠、麻薬、麻酔薬は芸術の基本的な形、つまり芸術と同じ効果を生み出す。しかし愛、睡眠、麻薬にはどれも幻滅させられる。愛には飽きを感じ、幻滅する。睡眠からは目覚め、眠ってしまえば生きなかったことになる。麻薬は、刺激を受けたあの同じ肉体が荒廃するという代償を払う。しかし芸術には幻滅がない、最初から幻想が許されたからだ。芸術からは目覚めない、そこでは夢見るとしても眠らないからだ。芸術にはそれを娯しんだからといって支払う代償も罰金もない。

  芸術が与えてくれる悦びはある意味でわれわれのものでないので、われわれはその対価を支払う必要も、それを後悔する必要もない。

  芸術は、われわれのものでないにもかかわらず娯しませてくれるものすべてと理解される——通り過ぎた跡、他人に与えられた微笑み、入り日、詩、客観的な世界。

  手に入れるなら失う。手に入れずに感じるなら保持する、なぜなら、あるものからその本質を引き出すからだ。

 

高橋都彦 訳