本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

角幡唯介「漂流」終章

  私が追いもとめたのは土地や海、すなわち人間には制御できないどうしようもない自然がそこに属する人の生き方に強制的に介入をする世界であり、そこできずかれる人間と世界との強固な関係性だった。それはつまりニライカナイをそばで感じて生きてきた人々の精神風土であり、人間が土地との間で循環的につむいできた生の形式だった。ひと言でいえば、人間の生き方の原型だった。私は遊離者である自分が経験できなかった、その人間の生き方の原型をさぐるために、沖縄や太平洋の海をヨタヨタとさまよいあるいてきた。規範や管理をおしつけてくる陸の世界の倫理など意に介することなく、自由奔放、融通無碍に独自の海洋民的倫理のおもむくままに生きる姿に、私はすがすがしさをおぼえていた。