本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」第1部第5章

  簡単にまとめると、食料生産を独自にはじめた地域は世界にほんの数カ所しかない。それらの地域においても、同じ時代に食料生産がはじまったわけではない。食料生産は、それを独自に開始した地域を中核として、そこから近隣の狩猟採集民のあいだに広まっていった。その過程で、中核となる地域からやってきた農耕民に近隣の狩猟採集民が侵略され、一掃されてしまうこともあった。この過程もまた多くの時代にわたって起こったことである。最後に、環境的には非常に適しているのに、先史時代に農耕を発展させたり実践したりすることがなかった地域が世界には複数存在する。そうした地域の住民は、近世になるまで狩猟採集生活を営んでいた。つまり食料生産を他の地域に先んじてはじめた人びとは、他の地域の人たちよりも一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩みだしたのであり、この一歩の差が、持てるものと持たざるものを誕生させ、その後の歴史における両者間の絶えざる衝突につながっているのである。

 

倉骨彰 訳