本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ラッセル「幸福論」第4章

あまりにも興奮にみちた生活は、心身を消耗させる生活である。そこでは、快楽の必須の部分と考えられるようになったスリルを得るために、絶えずより強い刺激が必要になる。多すぎる興奮に慣れっこになった人は、コショウを病的にほしがる人に似ている。そんな人は、ついには、ほかの人ならだれでもむせるほど多量のコショウでさえ味がわからなくなる。退屈には、多すぎる興奮を避けることと切り離せない要素がある。そして、多すぎる興奮は、健康をむしばむばかりではない、あらゆる種類の快楽に対する味覚をにぶらせ、深い全身的な満足をくすぐりで置き換え、英知を小利口さで、美をどぎつい驚きで置き換えてしまう。

 

安藤貞雄 訳