本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

M.マクルーハン 「メディア論」第二部

  エドワード・T・ホールは『沈黙のことば』のなかで「時間が語る——アメリカのアクセント」を論じて、われわれの時間感覚とホピ・インディアンの時間感覚を対照してみせている。ホピ・インディアンにとって、時間は画一的あるいは持続的な連続体でなく、共存するいろいろな種類のものの複数体である。「それはトウモロコシが成熟し、羊が成長するときに生ずるものである……それは生あるものがその生のドラマを演じきるさいに起こる自然の過程である。」それゆえに、ホピ・インディアンにとっては、生の種類があるだけ、時間の種類もあることになる。これは現代の物理学者や科学者のもっている時間感覚でもある。科学者たちは、もはや出来事を時間のなかに含ませようとはせず、それぞれの物体がそれ自身の時間と空間とを作ると考える。その上、われわれが電気によって瞬間的な世界に住んでいる現在、空間と時間とは「空間-時間」の世界で全面的に相互に浸透しあっている。

 

栗原裕 河本仲聖 訳