本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

J.L.ボルヘス「卑劣な男」

友情は恋に比べても、またこの複雑な人生が見せる別の顔のどれ一つと比べても、負けないくらい神秘的なものだ。いつかふと思ったのだが、ただ一つ神秘的でないものがあるとすれば、幸福だ。それだけで自足するものだから。 鼓直 訳

角幡唯介「極夜行」

ところが光がないと、心の不安の源である空間領域におけるリアルな実体把握が不可能となる。周囲の山の様子が見えないと、当然、自分が今どこにいるか具体的に分からない。居場所が分からなければ、近い将来、正しくない場所に行ってしまったり家に帰れなか…

角幡唯介「極夜行」

この現実の経験世界に存在するあらゆる事物と同様、人間の存在もまた時間と空間の中にしっかりとした基盤をもつことで初めて安定する。安定するためには光が必要である。なぜなら光があれば自己の実体を周囲の風景と照らしあわせて、客観的な物体としてその…

角幡唯介「極夜行」

氷床行進中から延々とつづいてきた、この漠然とした、とりとめのない、まったく不確かな感じ。闇によって視覚情報が奪われることで、己の存在基盤が揺るがされる感じ。普段の生活で意識せずに享受しているがっちりとした揺るぎない世界から浮遊し、漂流して…

角幡唯介「極夜行」

テクノロジーの本質は人間の身体機能の延長であり、あるテクノロジーが開発されると、人間は本来、己の身体にそなわっていた機能をそのテクノロジーに移しかえて作業を委託することができる。そうすると作業効率は高まり仕事は迅速になって社会は発展するが…

マルサス「人口論」第18章

まさしく人生の厳しさが人間の才能を育てるのである。日常の経験によって、われわれはそれを確信できる。われわれは自活するため、あるいは家族を養うためにがんばらねばならないが、まさにその努力が自分の才能を開花させるのである。努力することがなけれ…

マルサス「人口論」第18章

人間の能力は、つねに働かせないとすぐに気が抜けて眠り込んでしまう。人間の精神構造について経験がわれわれに教えてくれたことによれば、肉体的な欲求から生じる活動意欲を人類が失ったならば、われわれは刺激の不足により、野獣と同じレベルに下落してし…

マルサス「人口論」第15章

すでに明らかなように、人口の原理により、十分な供給をうける人数よりも供給を必要としている人数のほうがかならず多い。金持ちのお余りで養える人数が三人だとしても、それを欲しがる人数は四人だったりするのだ。この四人から三人を選ぶと、金持ちは選ん…