本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

中島義道「人間嫌い」のルール

したいことをしない人生はつまらない。なぜ多くの人は、どうせ死んでしまうのに、したいことをしないのであろう?安全な人生を歩もうとするのであろう?もちろん、したいことをした結果、刑務所にぶち込まれるかもしれない。飢え死にするかもしれない。だが、「したいことをする」とは、いつもそういう危険と背中合わせなのだ。絶対安全であり、かつしたいことができたらいいなあ、と思っている人は、いつまでもしたいことができないであろう。そんな虫のいいことはこの世ではありえない。

  したいことをするという信念を(ある程度)実現している人は、他人がしたいことをしていても、嫉むことはない。したいことをしている人を嫉むのは、決まって自分がそれをしていない人である。また、したいことをしようとして失敗した人は、したいことをしないままに人生を終えるよりずっと豊かで充実していると思う。

  親に反対されたから、妻子を養わねばならないから、勇気がないから、才能がないから……という理由をどんなに並べても無駄である。ほとんど同語反復であるが、ほんとうにしたいことなら、誰がどんなに反対しても、自分がどんなに迫害されても、まわりの者がどんなに不幸になっても、するはずだからである。こうした理由をもってあきらめることが「できる」のは、それほどしたいことではないからなのだ。人間には二通りのはっきり異なったタイプがある。その一つは、いかなる犠牲を払ってもしたいことをするタイプであり、もう一つは、健康、手堅い職業、人との良好な関係などから成る「安全」を最高の価値とするタイプである。