本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

中島義道「人間嫌い」のルール

  世間のうちで生きていくこと、それはたえまなく「したくないこと」をしなければならないことである。だが、これはそれ自体美徳ではなく、社会が滅亡しないための——それだけのための——必要悪である。だから、社会の存続をそれほど重視しない人間嫌いにとっては、したくないことをなるべくしないことは、人生の目標になりうるのだ。

  この場合、他人の自己中心主義も同じように認めることが必要である。道徳的理由からではない。そのほうが、風通しがよく、結局(人間嫌いである)あなたが生きやすくなるからである。自信をもったおおらかな自己中心的な人が私は好きである。これを実現しているのは大方、特殊な才能があり、しかもそれを支える特殊な感受性が社会で認められている人である。

  私の体験的実感からすると、この意味で自己中心的な人は、自分の「わがまま」をよく心得ているので、他人の自己中心主義をも尊重する。つまり、それを尊重して近づくか遠ざかるかであって、それを侵害しようとはしない。

  自己中心的な人を嫌うのは、自己中心的であることができない人、そうありたくても我慢している人である。自分もこんなに我慢しているんだ、世の中そんなに甘くはないぞ、だからお前もそんな夢みたいなことを考えずに、もっと大地に足をつけて現実をよく見ろ……というわけである。