本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トルストイ「トルストイの言葉」

  やがて私の行為は、それがどんな行為であっても、おそかれ早かれ、すべて忘れられてしまい、そしてこの私という存在も、完全に消滅してしまうのだ。それなのに、なんであくせくするのだろう?この事実にどうして人間は、目をつぶって生きて行くことができるのであろう?実に驚くべきことではないか!そうだ、われわれが生きることができるのは、この世の生に酔いしれているあいだだけである。だが、そうした陶酔からさめるが早いか、それが一から十まで欺瞞であり、愚劣きわまる迷妄であるにすぎないことを、認めないわけにはいかないのだ!すなわち、この意味においては、この世の人生にはおもしろいことや、おかしなことは、なにひとつないのである。ただもう残酷で、愚劣なだけなのだ。                                                         (懺悔)

 

小沼文彦 訳編