本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  自由とは孤立の可能性なのだ。もしおまえが人から離れることができ、金銭の必要性や群れを作る必要や愛や栄光や好奇心のために人を捜し求めなくてもすむなら、おまえは自由だ、なぜなら、そうしたものはどれも、静寂や孤独のなかでは栄えないからだ。もしもおまえが独りで暮らせないのなら、奴隷に生まれついたのだ。精神と心のあらゆる偉大さをそなえているかもしれない。それなら、おまえは高貴な奴隷か賢い召使だ。だが、おまえは自由ではない。そして悲劇はおまえに起きているのではない、なぜならおまえがそのように生まれたという悲劇はおまえに起きたのではなく、ただ〈運命〉によるものだからだ。しかしながら、生活が圧迫し、生活そのものがおまえに奴隷になるように強いるなら、おまえは哀れだ。もしも自由に生まれ自己充足でき、孤立することができるのに、貧困のために共同生活をせざるを得ないなら、おまえは哀れだ。そう、それはおまえの悲劇で、おまえにつきまとう。

  生まれつき自由の身であるのは、人間の最大の光輝であり、卑しい隠者を王よりも、さらに、力の軽視ではなくて力によって、自足できる神々にもまして優れたものにする。

 

高橋都彦 訳