本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

フェルナンド・ペソア「不安の書」

  世界は感じない人間のものだ。実用的な人間になるための本質的な条件は感性に欠けていることだ。生活を実践する上で大切な資質は行動に導く資質、つまり意志だ。ところが、行動を妨げるものがふたつある。感性と、結局は感性をともなった思考に過ぎない分析的思考だ。あらゆる行動はその性質上、外界に対する個性の投影であり、外界は大きく主要な部分が人間によって構成されているので、その個性の投影は、行動の仕方次第では、他人の進む道を横切ったり遮ったり、他人を傷つけたり踏みつけたりすることになる。

  したがって、行動するには、われわれは他人の個性、彼らの苦悩や喜びを容易に想像できないでいることが必要になる。共感する者は立ち止まってしまう。行動家は外界をもっぱら動かない物質——彼が踏みつけたり、道から取り除いたりする石のように、それ自身動かないものであれ、あるいは、石のように取り除かれるか踏みつけられるかして抵抗するすべもないまま、石と同様に動かない人間であれ——そうした物質から構成されていると見なす。

 

感じない者は命令する。勝つのに必要なことしか考えない者が勝つ。

 

高橋都彦 訳