本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

リチャード・バック「かもめのジョナサン」

  ジョナサンが岸にいる群れのところにもどった時には、夜もすっかりふけていた。彼は疲れはてており、目まいがするほどだった。だが、心にあふれる歓びをおさえかねた彼は、着地寸前に急横転を加えた宙返り着陸をやってのけた。みんながこのことを聞いたら、と彼は考えた。おれのこの〈限界突破〉のことを聞いたらきっと大騒ぎして歓ぶぞ。いまやどれほど豊かな意義が生活にあたえられたことか!漁船と岸との間をよたよたと行きつもどりつする代りに、生きる目的がうまれたのだ!われわれは無知から抜け出して自己を向上させることもできるし、知性と特殊技術をそなえた高等生物なのだと自認することも可能なのだ!われわれは自由になれる!いかに飛ぶかを学ぶことができる!

 

五木寛之 訳