本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ダニエル・コーエン「経済は、人類を幸せにできるのか?」訳者あとがき

朝日新聞のインタビュー

「経済成長は、人間社会にとって自然なことではない。18世紀までは、経済的、技術的に進歩があっても、それは人口の増加に寄与するだけで、一人あたりの所得を増やすことはなかった」。けれども「(現代人でも)一人一人の幸福は増えてはいない。経済が成長すれば、一人一人はより多くの財を手にできるが、より幸福にはならない、ということだ」と述べている。

  では、経済成長によって豊かになったことで、人はなぜ幸せにならなかったのか?との記者の質問に対し、「人が幸せを感じるのは成長が加速する時であって、成長が止まれば消える」とし、「人を幸せな気分にするのは成長であって、豊かさそのものではない。『もっと、もっと』という感覚だ」とつづけた。つまり経済成長とは「麻薬中毒」のようなものであって、21成長に生きる私たちは、エコロジー上の大災害を招くこの中毒から、脱出すべきだと説いている。そして「富というものは、働かなければいけない時間を減らすためにあるものだ。貧しい人がたくさん働くのは、まさに貧しいからだ。余裕のある者も同じくらいに働くべきだという考えはばかばかしい」と断言し、(働きすぎの)インタヴュアーを唖然とさせ、読者から大きな反響があった。

 

林昌宏 訳