本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

タゴール「ギタンジャリ」

95

いのちの しきいを越えて

初めて この世に来たとき

私は知らなかった。

この広大な 神秘の中へ

真夜中の森の 一つの蕾のように

わたしを誕生させた力は 何だろうか!

暁の光を 見上げたときすぐに

わたしはこの世の よそ者でなく

名前も形もない 不思議なものが

わたしの母の姿となって

その腕に わたしを抱きあげたことを知った。

それと同じように 死に当っても

前から わたしを知っていたように

あの知られないものが 現れるだろう。

わたしは この生を愛するゆえに

死をも また愛するように なるだろう。

赤児は 母が右の乳房から 引き離すと泣くけれど

すぐに 左の乳房を あてがわれて 安心するのだ。

 

高良とみ 訳