本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ボルヘス「ボルヘス詩集」(「ブエノスアイレスの熱狂」より)

散策

香料入りのマテ茶のように芳しい夜が
遠い平原を招き寄せる。
ぼくの孤独の道連れの
夜の街はひっそりと静まり返って、
どこまでも続いている道には不安な気配が漂う。
夜風は平原の予感を、
別荘の安らぎを、ポプラの記憶を運んでくるが、
これらは硬いアスファルトの下、
家々の重みに押し潰され
閉じ込められた地面を戦慄させるだろう。
薄暮には何かを期待する少女を思わせた
バルコニーも、今はもう閉ざされている。
油断のならない猫そっくりな夜が
意味もなくバルコニーを脅かしている。
静寂が玄関のあたりを支配している。
深夜の豪勢な時計が
その虚ろな影に
茫洋とした時を惜しげもなく注ぎ込む。
いかなる夢も呑んでしまう
厖大な時間。
日々の営みが
貪欲に計測するものとは違った、
魂ほどの広がりのある時間。
この街を眺めているのは、ぼくだけだ。
ぼくが眼を逸らせば、街は消えるだろう。
(とげとげしい忍び返しをつらねて
果てしなく続く塀と、
おぼおぼしい光を投げている
黄色い街灯が見える。
瞬いている星が見える)。
昼間を覆っていた
天使の黒い翼のように、
限りない生気にみちた夜の闇が
ささやかな街路を消していく。

鼓直