本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

星野道夫 「長い旅の途上」

  五年前、アラスカで死んだ友人のカメラマンの灰を、一本のトウヒの木の下に仲間で埋めたことがある。そこはマッキンレー山に近い、イグルーバレイと呼ばれる谷だった。灰を埋めた小さな丘から、トウヒの森が見渡せた。彼が一番好きな場所だった。
  この世に生きるすべてのものは、いつか土に帰り、また旅が始まる。有機物と無機物、生きるものと死すものとの境は、一体どこにあるのだろう。
  いつの日か自分の肉体が滅びた時、私もまた、好きだった場所で土に帰りたいと思う。ツンドラの植物にわずかな養分を与え、極北の小さな花を咲かせ、毎年春になれば、カリブーの足音が遠い彼方から聞こえてくる……そんなことを、私は時々考えることがある。