本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

G.ガルシア=マルケス「予告された殺人の記録」

「さあ」と彼は、怒りに身を震わせながら言った。「相手が誰なのか教えるんだ」
彼女は、ほとんどためらわずに、名前を挙げた。それは、記憶の闇の中を探ったとき、この世あの世の人間の数限りない名前がまぜこぜになった中から、真っ先に見つかったものだった。彼女はその名に投げ矢を命中させ、蝶のように壁に留めたのだ。彼女がなにげなく挙げたその名は、しかし、はるか昔からすでに宣告されていたのである。
サンティアゴ・ナサールよ」彼女はそう答えた。

 

野谷文昭訳