本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

レイ・カーツワイル 「人類の未来」より

  もちろん、人間と同様、コンピュータの能力も無限ではありません。そのように見えるかもしれないけれども、データすべてを記憶するわけではない。知性の特性の一つとして、情報の取捨選択ということがあります。そうしなければ押し寄せる情報の波にのまれてしまいますから、常に選択をしていかなければなりません。
  10年、20年前に起こったことを覚えているという場合、それは起こったことをビデオのように記憶しているというのではなく、残っている記憶の断片をつないで、新たにその状況を再構成しているのにすぎないのです。コンピュータも基本的に同じです。それが知性のエッセンスというものです。
  刻々と入ってくるすべての事柄を覚えようとしないこと。そうでないと、膨大な記憶量を誇るように見えるコンピュータでも、簡単に情報量に圧倒されてしまうのです。常に、後で必要になる重要なエッセンスだけを残して、他を破棄するということを行う必要があります。コンピュータでも同じことができますし、AIも当然このように働きます。
  実際、コンピュータが車を運転できるということは、何が重要なのかを判断できるということです。これはとても人間的なタスクです。運転しながら、通り過ぎていく樹のすべての枝ぶりや葉のつき方に注意を払うことは重要ではありませんが、もしボールが目の前に飛んできたら、ボールがあるということは、近くにそのボールを追いかけている子供がいるかもしれないから、特別な注意を払う必要がある、というふうに仮定できる知能を持っていなければならない。
  樹に何枚の葉がついているかというようなことに注意を払わないで、その状況を分析して、重要なことだけにフォーカスする。それが知能のエッセンスでしょう。マシーンもそれができるようになってきています。

 

吉成真由美インタビュー・編