パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」
彼女は、自分が全く普通だと信じていた。彼女の死にたいという選択の裏には、簡単な理由が二つあり、もしそれを説明するメモを残したら、多くの人が彼女に賛成してくれるだろう。
一つ目の理由は、彼女の人生の全てが代わり映えせず、一度若さを失ってしまえば、老齢が消えない跡を残し始め、病気が始まり、友人たちに先立たれたりと、あとはずっと下り坂になることだ。生き続けることで得るものなど何もなく、それこそ、苦悩する可能性が増えていくだけだろう。
二つ目の理由は、より哲学的だった。ベロニカは新聞を読み、テレビも観ていたから、世の中で何が起きているのか分かっていた。全てがおかしくなり、まともに変える力もなくて、自分の力不足を感じざるを得なかったからだ。
江口研一 訳