ポール・ラ・クール 「現代詩集Ⅳ」新潮社より
樹木
夏じゅう、ぼくは
おまえを見つめていた、木よ
だが、ぼくら双方の沈黙
歌がはじまる前の
深い、あらあらしい抑圧は
ただおまえのためにのみ歌となった
おお、ぼくの通り道の
土に根をはやして
成長する詩人よ
ぼくらはきっと出あうことができるのだ
ぼくの中にあの遠い明るい世界を導く
最初の言葉が生れた時だけ。
あの頃、その言葉は泉であり
岩山や波
一枚の葉、小川の中の一つの石
森の向うでの雷鳴であった。
だが、ぼくはあまりに重くなった——
驚嘆しながら、しずかに
おまえのお伴をして
忘れられた足跡をたどるには。
ぼくの家の
戸口のそばに立ちつくす
やさしい者よ。
山室静 訳