L・ヴァン・デル・ポスト 「影の獄にて」剣と人形
子供のころからすでに彼女は、自分自身の運命がどう転ぼうと、人生は生きる価値があることを証してくれるにちがいないと信じて疑わなかったという。ほんの一年まえ、ナチがオランダを占領し、彼女はそれから逃れてきたのだが、その占領に続いた絶望の崩壊のなかにあってさえ、耐え抜く特権を与えられている者にとっては、どんなことも結局のところ価値があることを、決して疑ったことはなかった。生のリズム・理由・観念、または生の一時的停止の以前と彼方から流れて止まない無限の生命の連続にたいする、彼女の信念は非常に深かったから、信念の一形式というよりもむしろ、この女の心のなかに組み込まれた一種論駁しがたい知識のように見えたものだ、とロレンスは強調するのだった。
由良君美 富山太桂夫 訳