リルケ 「リルケ全集第3巻」
海の歌
カプリ、ピッコラ・マリナ
海から吹いてくる太古の風、
夜の海風、——
おまえは 誰のところにも吹いてくるのではない、
誰か目覚めているものがあるならば、
どのように おまえに耐えうるものかを
知らねばならぬだろう。
海から吹いてくる太古の風、
それは ただ根源の岩石のために
吹いてくるようだ、
ただただ空間ばかりを
遠くのほうからひき寄せながら……
おお、おまえをどう感じているのだろう、
うえの高みで 月の光を浴びて立っている
一本の、実を結ぶ無花果の樹は。
塚越敏 訳