本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 「森の生活—ウォールデン—」孤独

  わたしは、大部分のときを孤独ですごすのが健全なことであるということを知っている。最も善い人とでもいっしょにいるとやがて退屈になり散漫になる。わたしは独りでいることを愛する。わたしは孤独ほどつき合いよい仲間をもったことがない。われわれはたいがい、自分の部屋にとじこもっているときより、そとに出て人なかに立ちまじわったときの方が一層孤独になる。考えつつあり、あるいは働きつつある人間は、どこにいようとつねに孤独である。孤独は人とその仲間とのあいだをへだてる空間のマイル数によって計量されるものではない。

 

  社交は通常あまりに安価である。われわれはあまりしげしげと会い、その間にお互いにとって何かの新しい価値のあるものを獲得する時間をもたないで会う。われわれは一日に三回食事時に会い、お互いに、われわれがそれであるところの古い黴くさいチーズの味をあらためて相手に味わわさせる。われわれはこの頻繁な会合をがまんできるものにするために、そして公然たる戦争をひらかずにすむように、礼儀作法とよばれる、あるひと組の規則を取りきめなければならなかったのだ。われわれは郵便局で会い、懇親会で会い、毎晩炉辺で会う。われわれはごたごたと生き、お互いの邪魔になり、お互いにつまずきあう。こうしてわれわれはお互いに対して多少とも敬意を失うのだとわたしは思う。

 

神吉三郎 訳