本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」おわりに

  本研究の総合的な結論は、民間財産に基づく市場経済は、放置するなら、強力な収斂の力を持っているということだ。これは特に知識と技能の拡散と関連したものだ。でも一方で、格差拡大の強力な力もそこにはある。これは民主主義社会や、それが根ざす社会正義の価値観を脅かしかねない。
  不安定化をもたらす主要な力は、民間資本収益率rが所得と産出の成長率gを長期にわたって大幅に上回り得るという事実と関係がある。
  不等式r>gは、過去に蓄積された富が産出や賃金より急成長するということだ。この不等式は根本的な論理矛盾を示している。事業者はどうしても不労所得者になってしまいがちで、労働以外の何も持たない人々に対してますます支配的な存在となる。いったん生まれた資本は、産出が増えるよりも急速に再生産する。過去が未来を食い尽くすのだ。

  正しい解決策は資本に対する年次累進税だ。これにより果てしない不平等スパイラルを避けつつ、一次蓄積の新しい機会を作る競争とインセンティブは保持される。

  むずかしいのはこの解決策、つまり累進資本税が、高度な国際協力と地域的な政治統合を必要とすることだ。

山形浩生 守岡桜 森本正史 訳

*金持ちは簡単に資産を国外に移せるし、非公開株式などを含めあらゆる資産に課税しない限り累進資本税が無意味であることが、第Ⅳ部で論じられている。