本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

V.E.フランクル 「夜と霧」苦悩の冠

経験的には収容所生活はわれわれに、人間は極めてよく「他のようにもでき得る」ということを示した。人が感情の鈍麻を克服し刺戟性を抑圧し得ること、また精神的自由、すなわち環境への自我の自由な態度は、この一見絶対的な強制状態の下においても、外的にも内的にも存し続けたということを示す英雄的な実例は少くないのである。強制収容所を経験した人は誰でも、バラックの中をこちらでは優しい言葉、あちらでは最後のパンの一片を与えて通って行く人間の姿を知っているのである。そしてたとえそれが少数の人数であったにせよ——彼等は、人が強制収容所の人間から一切をとり得るかもしれないが、しかしたった一つのもの、すなわち与えられた事態にある態度をとる人間の最後の自由、をとることはできないということの証明力をもっているのである。「あれこれの態度をとることができる」ということは存するのであり、収容所内の毎日毎時がこの内的な決断を行う数千の機会を与えたのであった。その内的決断とは、人間からその最も固有なもの——内的自由——を奪い、自由と尊厳を放棄させて外的条件の単なる玩弄物とし、「典型的な」収容所囚人に鋳直そうとする環境の力に陥るか陥らないか、という決断なのである。

 

霜山徳爾 訳