J.D.サリンジャー 「ライ麦畑でつかまえて」
続いて僕は、みんながよってたかって僕を墓地の中に押しこめて、墓石に名前を彫ったりなんかすることを考えた。まわりはみんな死んだ奴らだからな。いやあ、人間、死ぬと、みんなが本当にきちんと世話をしてくれるよ。僕が死んだときには、川かなんかにすててくれるくらいの良識をもった人が誰かいてくれないかなあ、心からそう願うね。墓地の中に押しこめられるのだけはごめんだな。日曜日にはみんながやってきてさ、ひとの腹の上に花束をのっけたり、いろんなくだんないことをやるだろう。死んでから花をほしがる奴なんているもんか。一人もいやしないよ。
野崎孝 訳