本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

サン=テグジュペリ 「人間の土地」僚友

  何ものも、死んだ僚友のかけがえには絶対になりえない、旧友をつくることは不可能だ。何ものも、あの多くの共通の思い出、ともに生きてきたあのおびただしい困難な時間、あのたびたびの仲違いや仲直りや、心のときめきの宝物の貴さにはおよばない。この種の友情は、二度とは得がたいものだ。樫の木を植えて、すぐその葉かげに憩おうとしてもそれは無理だ。

  これが人生だ。最初ぼくらはまず自分たちを豊富にした、多年ぼくらは木を植えてきた、それなのに、やがて時間がこの仕事をくずし、木を切り倒す年が来た。僚友たちが一人ずつぼくらから彼らの影を引き上げる。かてて加えて、ぼくらの喪に、今日以後、人知れぬ老いの嘆きが来て加わる。

 

堀口大学