ジャン・ジオノ 「木を植えた男」
どんな成功のかげにも、逆境にうちかつ苦労があり、どんな激しい情熱を傾けようと、勝利が確実になるまでには、ときに絶望とたたかわなくてはならぬことを知るべきだった。
ある年、ブフィエは一万本ものカエデを植えた。
ところが苗は全滅し、かれは絶望のふちに立たされた。
一年たって、カエデはあきらめ、ふたたびブナの木を植えはじめて、ようやくカシワ以上にうまく育てた。
このたぐいまれな不屈の精神を思うとき、それがまったくの孤独の中で鍛えられたのだということをけっして忘れてはならない。そう、生涯の終わりにかけて、ほとんど言葉を失うほどの孤独の中で。
寺岡襄 訳